“お殿様統治”ベネッセ、米国流の原田新社長で再建なるか?日米企業元社長が体験的分析
アップルコンピュータ(現アップルジャパン)社長や日本マクドナルドホールディングス(HD)会長(現職)を歴任した原田泳幸氏が6月、ベネッセホールディングス会長兼社長へ就任し話題を呼びました。
原田氏はベネッセに着任した直後の7月、会員の個人情報大量流出事件発覚という経営危機に直面し、さっそく「修羅場くぐり」が原田氏に襲いかかりました。
その原田氏ですが、マクドナルドの2012~13年のスランプを勘案したとしても、アップル社長を退職後、外食というまったく異なる業界の外資系企業の日本法人トップとして、顕著な業績回復を果たしたことは紛れもない事実です。
原田氏が経営力を見事に発揮できた要因を考えてみると、両社は業界、業態こそ異なるが、ともに世界的外資、米国系のグローバル企業という共通点にあると思います。筆者もかつてフォーチュン500企業(米誌「フォーチュン」が毎年優れた企業として選出する500社)に選ばれた米系企業の日本法人社長を5年間ほど務めていたので、それがよくわかります。企業文化的な面で共通している点があるのです。
というのは外資、特に米国系の企業では、意思決定のプロセスが比較的理解しやすい。米国は多民族が短期間に大量移民して形成された国なので、みんながうまくやっていくために「フェアにいこう」「フェアにやれ」という社会的な大原則、大規範が醸成されています。そこで、企業でも、オーナー企業でなければ、その意思決定は「ディベート(議論)」で決せられることになりました。
つまり企業の中で、何をやる、どうやるかが意思決定なわけですが、その際に自論がどうして良いのか、他者より優れているのか、議論をして相手を説得する、あるいは相手を攻め抜いた論が採用されるのが「フェア」ということになります。勝ちを収めた論、あるいは人物が採用されて重用されていくのです。
この米国流意思決定はわかりやすく、ロジカルだと表現することもできます。そしてそんな企業文化は、業界が変わっても基本的には変わりません。ですから、創業者のスティーブ・ジョブズが帰任して辣腕を振るい始めていたアップルから離れて、今度はマクドナルドを預かった原田氏としては、同じ米国系の大企業なので実はそれほど違和感がなかったのではないでしょうか。
●かけ離れた日米企業の意思決定プロセス
実は筆者には、外資系から日系オーナー企業に移って、うまくいかなかった経験があります。37歳の時に外資系の社長を引き受けて、英国、香港、オランダを本社とする各社の日本法人を歴任し、最後に5年間、前出のフォーチュン500企業の日本法人社長を務めました。その後、日系大手投資ファンドから要請を受けて、年商50億円規模の日系メーカーK社に派遣経営者として乗り込みました。
K社では半年の準備期間を経て着任したところ、初年度からいきなり好決算を出しました。するとそのファンドは、さっそくK社をエクジット(再売却)しにかかりました。そしてK社を買収したのは、明治時代創業のとある老舗メーカーT社で、当時の当主社長は4~5代目でした。
T社がK社を買収する条件の一つに私の留任というのが入り、報酬条件的にも折り合ったので留任に応じました。そしてそれをもって、投資ファンドからは離れ、いわばT社グループの雇われ社長となり、T社の当主社長の依頼で、筆者の新オフィスはその社長と同室となりました。つまり、机を並べたのです。