“お殿様統治”ベネッセ、米国流の原田新社長で再建なるか?日米企業元社長が体験的分析
ところが、同室で執務を開始するや否や、私たち二人はとても居心地の悪い状態であることに気が付きました。T社長は新卒入社からの御曹司で自分の考えはすべて神の声として通る。特に社長本人が主張することもなく、逆にオーナー社長の意向をくみ取って、「言われる前の阿吽の呼吸」で行動するのがよい幹部とされていたのです。T社長に表だって意見を具申するような幹部や部下はいませんでした。
一方、筆者は前述したとおり米国系企業の環境でのし上がってきた経営者であり外資生活が長く、自分の考えを述べ立て、意思決定のオプションを明示します。つまり、T社の社風の真逆にいたのではないでしょうか。
筆者は結局、T社本社に席を移して2週間で放り出されました。自分の業績とか経営手腕の結果でないことはその就任期間の短さが示しているので、自らの瑕疵だとは思っていません。日米の企業文化というか経営者文化というのを思い知らされた出来事でした。
●君臨すれども統治せず
ベネッセホールディングスの話に戻すと、同社の前身である福武書店は、最高顧問となった福武總一郎氏の父親、福武哲彦氏により1955年に創業され、哲彦氏の急死により86年に總一郎氏が社長に就任しました。總一郎氏は95年、社名をベネッセに変更し、大阪証券取引所、広島証券取引所を経て2000年に東証1部にベネッセを上場させました。
13年まで總一郎氏が筆頭株主でしたが、同氏及び親族の持ち株を日本マスタートラスト信託銀行に預託し、現在は同銀行が有力株主の一つです。上場はしているが、創業家が実質オーナーとして意思決定している、言ってみれば日本ではよくあるガバナンスの形態です。
ベネッセは14年3月期のグループ年商は4663億円、社員数は約2万人の大企業。「大企業だけど總一郎氏が実質オーナー」という構図ですが、珍しいのはこれだけの大企業のオーナーである同氏は、実は日本を離れニュージーランドに在住しているという点です。「君臨すれども統治せず」という「お殿様型ガバナンス」だとしたら、それはそれで見識のあるスタイルともいえます。
本連載の前回記事で、原田氏のベネッセ社長兼会長就任について書きました。ベネッセ再建の成否は、原田氏をスカウトしたベネッセの創業2代目で実質オーナーである福武氏がどこまで経営から身を引き、どこまで原田氏に任せられるのかにかかっています。原田氏の着任日6月21日を機に、福武氏はベネッセの会長から最高顧問に退きました。また原田氏としては、企業ガバナンスや意思決定風土が大きく異なる日系オーナー会社のトップに就任して、オーナーとの関係をどう築いていくのか。原田氏の手腕、そしてそれ以上に福武氏の度量が、けだし見ものです。
(文=山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役)