ところがこの戦略が仇となり、前述の7月の鶏肉事件を契機に客離れを決定づける原因になってしまったのだが、昨年暮れから同事件で同社が大揺れするまでの経緯を簡単に振り返ってみたい。
マクドナルドは昨年12月19日、13年12月期連結決算予想の下方修正を発表した。下方修正は同年8月に続く2回目。13年の既存店売上高が11月まで5カ月連続で減少したのが響いた。この時、カサノバ氏は記者会見で、業績悪化は「コンビニなど他業態との競合に加え、当社ハンバーガーが同業他社から研究されたことで優位性が薄らいでいる」のが原因と釈明。今後は「当社にしかできないことを強化する」と述べ、期間限定、朝食、定番の3メニュー拡充方針を示した。
今年2月6日に発表した13年12月期連結決算は、最終利益が2期連続の減益だった。既存店売上高が前期比6.2%減に落ち込むなど販売不振が響いた。カサノバ氏は「客を引き付けるメニュー提供ができなかった」と反省。メニュー開発を「最優先課題にする」と強調し、野菜や鶏肉など健康志向の食材を使った女性・家族客向け新メニュー投入方針を示した。
今年5月9日に発表した14年12月期第1四半期(14年1―3月)連結決算は、前期比減収減益だった。業績V字回復の期待を込めた大型キャンペーン「アメリカンヴィンテージ」も不発に終わり、既存店売上高減は一向に止まる気配がなかった。そんな苦境に追い打ちをかけたのが、7月の鶏肉事件だったのだ。マクドナルドFC関係者が語る。
「女性・家族客は昨年の平均で客数全体の35%を占めていた。このため、今年は新年早々から『女性・家族客数をもっと増やせ』の号令がカサノバ社長から下りた。しかし、鶏肉事件後は子供がマクドナルドに入ろうとすると親が慌てて止めるなど、ピタリと家族連れが来なくなった」
●客数減を招いた内部要因
だが、実はそれ以前から客数減を招く要因がマクドナルド社内に潜んでいた。例えば、同社は昨年7月、単品1000円という超高級バーガーを期間限定発売した。「高い満足感が得られるなら、少々高くても食べたい」のプチ贅沢ニーズ狙いだった。その後も「セットで700円台」の高単価メニューを投入し続けた結果、客単価こそ上がったものの、客数は反比例するように減少し、客離れが進行した。「客の多くは『値段の割にはおいしくない』の反応だった。それが本部には一向に伝わらず、顧客満足度の低いメニュー投入が止まらなかった」と、前出FC関係者は振り返る。
その前の12年には、レジカウンター上のメニュー表を廃止し悪評を集め、すぐに復活させるという混乱もあったが、「注文受付待ちの間に客がカウンター正面のボードメニューから食べたいセットメニューを決めれば、注文時間を短縮でき、客回転率が上がる」というのが、本部の狙いだった。本部は客の大半がセットメニュー注文客だと思い込んでいたためだが、ボードメニューには単品メニューの記載がなく、店頭で客の不満が渦巻いた。