ハイボール、爆発ヒットを呼んだ巧妙CM戦略?女性や家庭に需要拡大、居酒屋と協力関係
しかしサントリーは慌てることなく、CM全体のイメージはそのままで、即座に菅野美穂さんにバトンタッチして乗り切ります。このように柔軟に対応できるのは、CM自体を「タレントのイメージに頼ってつくる」のではなく、CMによって「タレントの魅力を最大限に引き出す」というスタイルが確立されているからにほかなりません。
一連のCMでは、人々の印象に残る共通要素を含んでいます。
まずは楽曲。「ウイスキーが、お好きでしょ」というメロディと歌詞は、多くの人の耳に定着していることでしょう。歌っているのは、最初が石川さゆりさんで、次はゴスペラーズ、そして竹内まりやさんと受け継がれました。菅野美穂さんの登場するCMはハナレグミ、現在はORIGINAL LOVEの田島貴男さんの歌声に替わっています。
女優さんを替えるだけでなく、それぞれ特徴のある魅力的な歌手の歌声も、このCMが視聴者を飽きさせない大きな理由のひとつかもしれません。
さらには、歌手や女優が替わっても、「美しい女主人」「カウンター越しの会話」「グラスに泡が立つ透明感」「黄色のトーン」などの要素は、CM開始当初から変わっていません。こうした気品ある強い「CM内の部品」たちによって、全体的なCMの方向性がしっかりと確立され、完成度の高いオリジナリティが出せるのです。
この基本フォーマットを崩さないからこそ、タレントが替わっても視聴者がすぐに「ハイボールのCMだ」と認識できるわけです。
●ハイボール文化の確立
次に、角ハイボールのCMカウンター・シーンの変遷を、広告メッセージから追ってみましょう。
最初のCMは、小雪さんがハイボールをつくるだけのシンプルなもの。言ってしまえば、ハイボールとは、ただのウイスキーのソーダ割りです。
しかし、ハイボールという聞きなれない言葉が人々の興味をぐっと引き寄せ、幅広く世に知らしめることに成功しました。
そして2年後、「ハイボールはどうやってつくるの?」という疑問に、「父の日にハイボール」のキャンペーンでしっかりと答えていきます。カウンターに座るお客の女性に、そのつくり方を小雪さんが伝授。バーという専門店のみならず、一般家庭の需要へと広げていきます。