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松江哲明の経済ドキュメンタリー・サブカル・ウォッチ!【第7夜】

「マンション売れ残りの裏で」リノベーション古民家が人気のワケ

post_1019.jpg司会業もできる作家村上龍の番組。(「カンブリア宮殿HP」より)

ーー『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』(共にテレビ東京)『情熱大陸』(TBS)などの経済ドキュメンタリー番組を日夜ウォッチし続けている映画監督・松江哲明氏が、ドキュメンタリー作家の視点で裏読みレビュー!

今回の番組:11月1日放送『カンブリア宮殿』(テーマ:不動産再生集団)

 大森のマンションは、築4年で24時間監視付きのオートロック、南向きの1K。さらにエアコン、浴室乾燥、クッキングヒーター付きで、トイレはウォシュレット。85000円の家賃を 80000円に値下げしたのにも関わらず空き室。不動産の女性も「ここ2〜3年で動きが悪い」とボヤく。

 対して紹介される長屋は築40年の長屋。家賃は 88000円だが満室が続く。オーナーも笑顔で「ありがたい」と答える。室内が紹介される。まるで『大改造!! 劇的ビフォーアフター』のアフターを紹介する時のような照明とばっちり決まったキャメラアングルに「キレイに見せ過ぎじゃないですか」とツッコミたくもなるが、確かに吹き抜けの高い天井に、モダン な内装。そんな古さを生かした作りに、小さいながらも可愛らしい庭、和室にもかかわらず暖かそうなフローリングは魅力的に見えた。

 この家に住む小原さんは 「同じ家賃ならセキュリティのしっかりしたマンションに住めたが、私にとっては古さに価値がある」と言う。「あー、なんかこの感想は分かる」と思った。僕も 引っ越しをしてそろそろ一年になるが、今、原稿を書く一戸建てもそんな理由で選んだからだ。

 マンションはつまらない。どこに何を置くかがほぼ決まってしまうから。僕はまず大量のDVDとVHSと本をどこに置くかが重要なのだ。あとパソコンから適度 な距離のあるテレビ。映画を見るのは当然だが、編集をする際のチェックとしても使えなければいけない。その点、この家は悪くなかった。築47年の間に住んだ人の手が入りすぎて、開けることが出来ない扉もあったり、1階が異様に寒かったり、トタン屋根のせいで太陽の熱を吸収し過ぎてしまったりもするが、飼う予定のなかった猫を招くことさえ可能な快適さがあった。暮らす家によって生活のリズム変わったり、価値観さえも影響されるのは楽しい。僕には小原さんの言う 「私にとって」という言葉がよく分かるし、今回の『カンブリア宮殿』はそういう人に「とって」は嬉しい内容だった。

 見向きもされない古い住居を人気物件に変えてしまうのは、住宅再生集団と紹介される「ブルースタジオ」。彼らは武蔵野美術大学で同級生だったデザイナーと建築士が集まり、98年に創業。僕は彼らが仕事を始めたきっかけは「楽しい」ことがしたいからではいかな、と想像する。画一的で生き方にモデルケースが求 められ、しかし新たな基準がまだ見えない時代に彼らが集い、共に会社を始めたのだろう、と。仕事を選ぶのではなく「自分にとって」を第一に好きなことを探 した結果が、住宅の再生だったのではないか。

 あるアパートを「再生」する場面が面白かった。6畳と3畳と紹介される2DKだが、建築設定担当の大島さんはまず全ての窓を外す。住居の情報さえも疑い、自分の目で広さを確認する。そこでさらなる魅力を探すのだ。この古いアパートには庭がある。といっても管理の面倒そうな草木だ。しかし、これをどう生かすかを考えれば自ずと個性が見えてくる。駐車場のスペースもこの敷地内として考えられることを確認した彼は、後日これをはなれとして使うことを提案していた。

 この地域はファミリータイプが多いことも考慮し、草木を庭園として使い、2DKという中途半端な単身者向けのアパートをはなれのある新築物件に変えてしまった。

「住みこなす」という単語を大島さんが使っていた。彼は学生時代、不動産に通っては「家賃20000円以下ってないですか?」と聞き回り、店主を困らせては隠れ物件を教えてもらっていたそうだ。そんな場所を転々とし、住むだけでなく、こなす楽しさを経験してきたのだろう。「ブルースタジオ」は自らの仕事をリノベーションと語る。「新たな価値観を生み出す再生術」だそうだが、この考え方は住居だけに当てはまらないのではないか。これまで当然のものとして見てきたことを、ほんの少し視点を変えることで価値を生む。僕は特に震災後、そういう生き方をしなければと思っていた。

 これまでと同じ生き方は出来ない、でも大きな変化に対処するのは難しい。ならば視点を変えてみる。新しいことを生むよりも簡単ではないか、と思う。

 管理の行き届いたマンションよりも、自分にとって住み易いかどうかを考えるのは、当たり前のはずなのに、なぜそれが出来なかったのだろう。「ブルースタジオ」の仕事は家を貸す人、住む人に新しい視点をアドバイスするような仕事なのかな、と思った。そこに住む人はまた新たな価値を「自分で」見いだすことが出来るだろう。僕も今住む家をさらに「住みこなしたい」と思った。
(文=松江哲明/映画監督)

松江哲明(まつえ・てつあき)
1977年、東京都生まれ。映画監督。99年に在日コリアンである自身の家族を撮った『あんにょんキムチ』でデビュー。ほかの作品に『童貞。 をプロデュース』(07年)、『あんにょん由美香』(09年)など。また『ライブテープ』(09)は、第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で作品賞。

BusinessJournal編集部

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