アスレジャー市場、10年で倍増へ…スポーツウェアが普段着化、60兆円市場に急成長

●この記事のポイント
アスレジャー市場は2024年に世界約4,025億ドル、日本約238億ドル規模に達し、年6%前後で拡大。背景にはリモートワーク定着、健康志向の高まり、高機能素材の進化がある。ルルレモン、ユニクロ、ワークマンなど価格帯別競争が激化し、サステナブル素材やスマートウェアが次の成長軸となる。
コットン調の新素材、機能性セットアップ、スニーカー通勤――。スポーツウェアと日常着の境界が静かに崩れ始めている。「アスレジャー(Athleisure)」と呼ばれるこの潮流は、単なるファッショントレンドではなく、日本人の働き方、健康観、そして消費行動の変化を映し出す構造的現象である。
ルルレモンからワークマンまで、異なる戦略を持つ企業が同一市場で競争する現在、アスレジャーは一過性のブームではなく、新たな産業領域として定着しつつある。本稿では市場データと現場動向を踏まえ、その本質と今後の展望を整理する。
●目次
- 市場データが示す「一過性ではない成長」
- なぜ今アスレジャーなのか――3つの構造変化
- 競争構造――三層で分かれる市場
- サプライチェーンにも広がる変革
- 課題とリスク――成長の裏側
- 10年後を左右する4つの潮流
市場データが示す「一過性ではない成長」
アスレジャー市場は、すでに世界規模で巨大産業となっている。2024年時点で世界市場は約4,025億ドル(約60兆円)、2033年には約7,300億ドル規模に達する見通しだ。年平均成長率(CAGR)は約6.9%と、一般アパレルの2〜3%を大きく上回る。日本市場も同様に拡大し、2024年の約238億ドルから2035年には約423億ドルへと成長が予測されている。
重要なのは、この成長がパンデミック特需の延長ではなく、複数の構造変化に支えられている点である。
「アスレジャーは“需要の前借り”ではなく、生活様式の変化に伴う恒常需要です。特に日本では、スーツ文化の緩和と健康意識の上昇が同時に起きており、衣料市場の再編が進んでいると見るべきです」(戦略コンサルタント・高野輝氏)
なぜ今アスレジャーなのか――3つの構造変化
働き方の変化――「服の役割」が再定義された
リモートワークやハイブリッド勤務の普及は、従来の「通勤着」と「運動着」の区分を曖昧にした。オフィスと日常の境界が薄れるなか、「一着で複数の用途を満たす服」への需要が拡大している。
ドレスコードの緩和も追い風となり、ストレッチ素材のジャケットや機能性パンツがビジネスシーンに浸透しつつある。
健康・ウェルネス志向の定着
フィットネス、ランニング、自宅トレーニングなどを生活に取り込む層が増加している。背景には、高齢化社会における「自己管理としての健康」という意識の変化がある。
さらにSNSの影響により、「健康的な生活そのものがスタイルである」という価値観が広がった。消費者の約41%がSNSをきっかけに購入しているというデータは、この変化を裏付ける。
「アスレジャーは“運動するための服”ではなく、“健康的な自分を可視化する装置”です。ライフスタイルそのものを表現するメディアとして機能しています」(同)
素材技術の進化――「機能の不可視化」
吸汗速乾、抗菌、温度調整といった機能はもはや特別ではない。現在のトレンドは、「機能を感じさせない機能」である。
帝人フロンティアニッティングがコットン調ポリエステル素材の増産に踏み切ったことは象徴的だ。見た目は天然素材でも、性能は高機能繊維という設計が、普段着としての受容を加速させている。
競争構造――三層で分かれる市場
アスレジャー市場は、価格帯ごとに明確な戦略分化が進んでいる。
高価格帯:ブランド体験の提供
ルルレモンやゴールドウインは、機能性に加え「ライフスタイル」や「コミュニティ」を提供し、価格プレミアムを正当化している。
中価格帯:既存顧客の取り込み
ユニクロやオンワードなどは、既存の顧客基盤を活かし、機能性を日常服に組み込む戦略を採る。最も競争が激しいゾーンである。
低価格帯:機能の民主化
ワークマンは高機能を低価格で提供し、市場の裾野を一気に拡大させた。
「現在の市場は“ブランド志向”と“合理志向”の二極化が進んでいます。中価格帯は最も難しいポジションにあり、差別化ができなければ収益性が圧迫される構造です」(同)
サプライチェーンにも広がる変革
市場の拡大は川上にも影響を及ぼしている。素材メーカーによる機能素材の開発競争、サステナブル素材の導入加速が顕著だ。
すでにアスレジャーブランドの約57%がリサイクル素材を採用しており、環境対応は「差別化」から「必須条件」へと移行しつつある。
また、ナイキと日本の繊維メーカーの協業や、アシックスによる気候対応型製品の開発など、日本企業の技術がグローバル競争の中で重要な役割を担っている。
アスレジャーの購買層は従来のスポーツ愛好家にとどまらない。
・女性が市場の中心
・男性市場が急成長
・「快適性」が最重要要因(約64%)
特徴的なのは、購買動機が「デザイン」より「実用性」にシフトしている点である。
課題とリスク――成長の裏側
市場拡大の一方で、いくつかの課題も顕在化している。
価格の壁
プレミアムブランドの価格は参入障壁となり、需要の取りこぼしを生む。
模倣品の拡大
ECの普及により偽造品の流通が拡大し、ブランド価値を毀損するリスクが高まっている。
トレンドの短命化
「アスレジャー疲れ」という指摘もあり、次のトレンドへの移行リスクは常に存在する。
「アスレジャーは長期トレンドである一方、商品単位ではコモディティ化が進みやすい。ブランドは“機能”以外の価値をどう設計するかが問われます」(同)
10年後を左右する4つの潮流
今後の市場を規定する要素として、以下が挙げられる。
・スマートファブリック(センサー内蔵衣料)
・ワークレジャーという新しい服装概念
・サステナブル素材の標準化
・アジア市場への展開
これらは単なる延長線ではなく、市場の質的転換を伴う可能性がある。
アスレジャーの本質は、衣服の進化ではない。それは「時間効率」「健康志向」「多用途性」という現代人の価値観が、衣服という形で具現化した現象である。
素材メーカー、スポーツブランド、ファストファッション、作業服企業――異なる出自のプレイヤーが同じ市場で競争するこの領域では、「誰のどの課題を解決するのか」という問いへの解像度が勝敗を分ける。
今後10年、競争の焦点は明確だ。機能・デザイン・サステナビリティの三位一体を、どの企業が次の次元へ引き上げられるか。
スレジャーはもはやファッションではなく、生活そのものを再設計する産業へと進化している。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)











