鈴木祐司「メディアの今、そして次世代」

「中高年向け」テレ朝、視聴率2位の裏で深刻な事態…バラエティ壊滅的、広告収入低迷

六本木ヒルズ内にあるテレビ朝日本社(「Wikipedia」より/Wiiii)

 テレビ朝日は2012年度、念願の視聴率三冠王にあと一歩までに迫った。ところがその後、G(ゴールデン)P(プライム)帯(夜7~11時)の数字は急落を始め、14年度から三冠王の日本テレビに差をつけられたままだ。

 しかも視聴率だけでなく、広告収入の面で見ても差は拡大の一途だ。12年度に375億円だったが、17年度は620億円にまで拡大してしまった。ここ何年も、安定的に2位を確保しているものの、次の飛躍は見えてこない。トップ争いを演じていることの“恍惚”と、首位との差が広がっていることの“不安”について考えてみた。

伸び悩む視聴率

 テレ朝は10~12年度にかけて、3年連続で世帯視聴率を改善させていた。この結果12年度は、開局以来初のGP帯トップとなり、全日でわずかに0.1%届かず三冠を逃していた(以下、視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)。


 ところが13~14年度と、全日・P帯・G帯とも大きく数字を落とした。それまでの勢いに急ブレーキがかかった格好だった。しかも15~17年度もGP帯で数字を落とし続けている。一度は肉薄した日テレに、大きく水をあけられたままなのである。

 ただし今年度の第1四半期は、いくぶん数字を改善した。前年同期比で見ると、首位の日テレが3時間帯のいずれも数字を落としたのに対し、テレ朝は大幅に改善させた。全日0.3%増、P帯0.8%増、G帯1.0%増と躍進していたのである。

 ただしロングスパンで見ると、喜んでばかりもいられない状況だ。15~16年度1四半期のP帯視聴率は0.2~0.3%幅で下落を続けていた。17年度が1.1%も急落したので、18年度の0.8%上昇は元のペースに戻っただけとも見える。つまり0.2~0.3%幅での下落は、今も続いていると解釈することも可能なのだ。視聴率の動向にも、恍惚と不安がついて回っている。

ドラマという恍惚

 視聴率全体だけでなく、番組をジャンル別に見た場合にも、同局には恍惚と不安がある。ドラマが好調なのに対して、バラエティが不調だからだ。

 17年度各局のGP帯でのドラマ枠は、4局とも3枠だった。3枠の年間平均視聴率は、最低がフジで7.9%。次が日テレの9.4%。『A LIFE』や『小さな巨人』などヒット作があったTBSでも年間平均では10.7%とかろうじて2桁だ。これに対してテレ朝は13.1%と2位のTBSに大差をつけている。

 テレ朝のドラマは3枠。水曜9時の「刑事ドラマ」枠、木曜8時の「木曜ミステリー」枠、そして木曜9時の自由枠だ。このうち水曜9時「刑事ドラマ」枠の視聴率は安定している。直近6年は年間平均13~14%台を保っており、14年度まで拮抗していたフジテレビ“月9”が16年度以降1桁となっているのと大差がついている。木曜8時「木曜ミステリー」も15年度こそ1桁だったが、他はずっと2桁と健闘している。実はこれら2枠は、シリーズ化させたドラマが大半だ。

「刑事ドラマ」枠では、水谷豊主演の『相棒』が02年以降毎年放送され、すでにseason16まできている。年間4クール中2クールを占めており、ずっと15%以上をとるので平均値を大きく押し上げている。

「木曜ミステリー」枠でも、沢口靖子主演の『科捜研の女』が1999年以降毎年のように放送され、すでにseason17となっている。こちらも10%台前半をキープしており、同枠の平均値を維持するのに大いに貢献している。
 
 ほかにも両枠には、渡瀬恒彦主演の『警視庁捜査一課9係』が06~17年にかけseason12まで放送された。そして同シリーズを受け継いだ井ノ原快彦主演の『特捜9』が今年から始まっている。上川隆也主演の『遺留捜査』もシリーズ5まで来ている。東山紀之主演の『刑事7人』もシリーズ4、内藤剛志主演の『警視庁・捜査一課長』はseason3と、シリーズ化させたドラマがどんどん増えているのである。

 これらのドラマは、軒並み2桁を維持している。初回が高いのが強い。ドラマの認知度が高くなり、世界観を多くの視聴者がすでに共有しているので番宣が楽なのである。しかも同局は平日午後帯に3時間もドラマの再放送枠をもっている。この枠を活用して、新シリーズ放送開始に併せ旧シリーズの再放送を繰り返すことで、屈強な番宣が可能なのである。

 シリーズ化は「刑事ドラマ」枠や「木曜ミステリー」枠に限らない。実は木曜9時の自由枠でも多用されている。米倉涼子主演の『ドクターX』が5期。沢村一樹主演の『DOCTORS』が第3シリーズ。天海祐希主演の『緊急取調室』がSECOND SEASONまできている。

 以上の結果としてテレ朝のドラマ枠は、13年から18年夏まで23クール69ドラマ枠中、50枠がシリーズドラマで占められた。なんとほぼ4本中3本を占める。

 しかもドラマのテーマは圧倒的に刑事ドラマが多い。ハプニングと謎解きのストーリー展開が、多くの視聴者を魅了するジャンルだからだ。全69枠中50枠を占めている。やはり4本に3本だ。次に多いのが医療ドラマ。『ドクターX』『DOCTORS』で6枠を占めた。人の生き死にかかわる緊迫した物語になりやすく、やはり視聴者に人気がある。これら鉄板ネタで56枠・8割強が占められている。高視聴率の背景には、こんな戦略があったのである。

バラエティという不安

 ドラマと対照的なのがバラエティだ。

 雨上がり決死隊がMCの『アメトーーク!』、タカアンドトシの『お試しかっ!』、ロンドンブーツ1号2号の『ロンドンハーツ』など、一世を風靡し視聴率もとったバラエティはあった。ところが近年、GP帯で高視聴率を誇る番組はめっきり減ってしまった。

 ビデオリサーチが発表する週間高視聴率番組10のバラエティ部門を見てみよう。17年度にランク入りした番組は、全体で529本あった。そのうち首位は日テレで400本。占有率は76%に達した。2位は75本のTBS、14%を占めた。そして3位は30本・6%のNHK。残念ながらテレ朝は18本・3%ほどにすぎなかった。しかも18本の大半は2~3時間の特番か、日曜午後の番組。GP帯の定時番組は、数えるほどしかランクインできなかったのである。

 この傾向は、今年度第1四半期でもあまり改善していない。全体で130本がランクインしたが、テレ朝は9本7%にとどまった。不定期で放送される『所&林修のポツンと一軒家』が3回ランクインしたために、同局の占有率は躍進したように見えるが、今春の改編による効果は、実際にはほとんど出ていない。同局バラエティの抱える問題は、かなり深刻といわざるを得ない。

視聴率と広告収入

 テレ朝の決算を振り返ると、ピークは12~13年度だった。それまで連結・単体ともに、売上も営業利益も大幅に伸ばしていた。ところが14年度以降のペースは鈍化に転じ、営業利益では単体で減益が出始めた。12~13年度の勢いは失われ始めていたのである。

 最大の要因は、前述のように視聴率が不調に陥っている点だ。これに連動して広告収入が変化している。10~13年度の4年間では、250億円近く増えていた。1年当たり60億円以上の増収だ。ところが14~17年度は、年間3億円ほどの微増ペースにとどまっている。成長ペースは20分の1まで落ちている。

 ここで要注意は、フジとの関係だ。

 G帯視聴率は12年度以降、フジをかわしている。しかも両局の差は年々広がっていた。ところが広告収入はなかなか逆転せず、17年度でようやく追いついた。年間視聴率で2%も差をつけて、広告収入がようやく同じ水準になったことになる。

 好調なドラマも刑事モノやシリーズドラマが多く、視聴者の過半は中高年だ。ところが広告主は若年層を重視する。世帯視聴率は低いが若年層が多いフジの広告収入が比較的多く、世帯視聴率は高いのに若年層で少ないテレ朝が広告収入でもたついた理由がここにある。

 世帯視聴率だけで見ると、テレ朝は民放2位で順風満帆に見える。ところが内実は、その世帯視聴率でも下落傾向にある。ましてや広告収入で見ると、中高年の占める割合が高いために、収入は視聴率ほどとれていない。

 表面的な視聴率で、“恍惚”としてばかりはいられない。広告主のニーズである若年層対策はどうするのか。視聴率自体の下落傾向にどう対応するのか。同局の“不安”も、待ったなしになりつつあるといわざるを得ない。
(文=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表)

鈴木祐司/メディアアナリスト、次世代メディア研究所代表

東京大学文学部卒業後にNHK入局。ドキュメンタリー番組などの制作の後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。メディアの送り手・コンテンツ・受け手がどう変化していくのかを取材・分析。特に既存メディアと新興メディアがどう連携していくのかに関心を持つ。代表作にテレビ60周年特集「1000人が考えるテレビ ミライ」、放送記念日特集「テレビ 60年目の問いかけ」など。オンラインフォーラムやヤフー個人でも発信中。
次世代メディア研究所のHP

Twitter:@ysgenko

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