糖尿病の治療について「治療を継続しなければならない」と答えた患者は89.4%に上りました。一方、医師が「そう患者は思っているだろう」と推測したのは62.1%だったことから、医師が思う以上に患者の治療に対する意識は高かったのです。
ところが、糖尿病で最も問題となる合併症については、逆に患者の甘い認識が浮き彫りになりました。「糖尿病網膜症になって失明しそうで怖い」と回答したのは32.6%、「心筋梗塞になりそうで怖い」が27.6%、糖尿病性腎症から「透析になりそうで怖い」が30.3%で、医師の推測よりいずれも7~17%も低かったのです。
加えて、医師からの合併症リスクの個別説明も、患者には十分に伝わっていませんでした。何より、血糖の治療目標値を正しく認識している患者は48%で、医師の推測する62.1%とは大きくかけ離れていました。これでは、その先にある日々の健康管理はしっかり認識されているはずがないと予想できます。そして、その予想は当たっていました。日々の健康管理の「体重を測る」「カロリー計算」「血圧を測る」「血糖値を測る」という項目についても、医師の推測よりもはるかに低かったのです。
つまり、患者は「治療の継続は大事」と一般論では認識していても、自身のリスクを正しく理解し、対応しているとはいえないようです。薬さえ飲めばよいのではなく、日々の体重管理、食事の意識などが重要なのです。これは医師の説明が患者に十分伝わっていないことの表れです。
また、治療には家族の協力やサポートが不可欠ですが、それが得られている糖尿病患者は2人に1人の割合にすぎないのです。糖尿病は生活習慣病であり、生活習慣を改められない状態では、怖い合併症を抑えることは決してたやすくありません。
患者、患者家族、医師、メディカルスタッフなどがしっかりチームを組むことが重要になります。孤独な闘病ではなく、多くの人に支えられて治療をしていると認識できると、患者は前向きに治療に取り組む姿勢ができ、病気のコントロールができるようになります。そしてそれは、医療費の削減にも結びつく正しい方法でもあるのです。
(文=松井宏夫/医学ジャーナリスト)