言葉に宿る魂を「言霊」というが、それは話す言葉だけでなく「書く言葉」においても同様だという説がある。そんな言霊を感じさせる「アートカリグラフィー」が今、注目を浴びている。カリグラフィーは、「アルファベットの習字」ともいわれ、ペンなどで文字を美しく表現する技法だ。それをアートと呼べる域にまで引き上げたものがアートカリグラフィーである。
ヨウコ・フラクチュール氏の生み出すアートカリグラフィーは、見る人の心を揺さぶるとして話題になっている。ドイツでカリグラフィーを学び、拠点を日本に移したヨウコ氏は2018年6月、空間デザイナー兼アートディレクターの雲野一鮮氏とデザインユニット「fRAum(フラウム)」を結成、活動を開始した。ファッションブランドや企業のブランディングコンサルティングも務める雲野氏の戦略通り、多くの商業案件が舞い込み、瞬く間に多忙な日々を送るようになったフラウムに、成功の秘訣を聞いた。
日本におけるアートカリグラフィーのパイオニアともいえるヨウコ氏だが、かつては普通の会社員だった。仕事のためイギリスに渡ることになり、そこからルクセンブルクやドイツを中心としてヨーロッパに10年以上住む機会に恵まれた。滞在時になるべく多くのものを吸収しようと考え、カリグラフィーだけでなく美術学校にも通ったほか、フラワーアレンジメント、シュガークラフト、切り絵、シャドウボックスなども学んだ。単に趣味で終わらなかったのは、ヨウコ氏の好奇心と行動力のなせる業といえる。
「ドイツのデュッセルドルフに移り住んだ時に、友人から紹介されたカリグラフィーのアトリエで、我が師匠・アレキサンドラレメス先生と出会いました」(ヨウコ氏)
アレキサンドラレメス氏は、『ロード・オブ・ザ・リング』の蔵書版を手がけたことで知られるカリグラフィーアーティストである。
「一般に知られるカリグラフィーは、通常は美文字だけを目指すことが多いのですが、アレキサンドラレメス先生の作品は単なる美文字ではなく、絵として、またアートとして昇華させた作品で、深い感動を受けました。もちろん、上手に書くことは大前提で、その上で『個性を引き出す』ことを考える指導のおかげで、自分にしか表現できないアートカリグラフィーを学ぶことができました。今は作品と私が一体化しているように感じながら描いています」(同)
残念ながらすでにアレキサンドラレメス氏は他界したが、ヨウコ氏はアレキサンドラレメス氏のすべての技術を学んだ、貴重なアートカリグラフィーの後継者でもある。
「文字には多くの力があり、私の作品には伝えたいメッセージがあります。また、文字には表情があり、可憐な文字、セクシーな文字など、伝えたいことによってどんどん変化させていくのが楽しいですね」(同)