ヨウコ氏の作品は、一見、テディーベアやドレス、靴などの塊に見えるが、一つひとつのアルファベットの形に意味を持たせ、単語が途中で終わることなく、音節にまでこだわりを持たせている。そして、それが一編の詩や物語になっているのだ。
「『何が書かれているのだろう?』という興味を惹き付け、老若男女すべての人に響かせることができるインパクトとメッセージ。ヨウコさんの作品に漂う背景は、文字の歴史に基づいており、本物の技術と抜群のセンスは唯一無二の存在です」(雲野氏)
どう使うかによって生きるアートの本質
日本に帰国後、アーティスト活動や教室での指導にあたっていたヨウコ氏は、数多くの空間デザインを手掛けてきた雲野氏に出会う。ヨウコ氏の作品に感銘を受けた雲野氏は大きな可能性を感じ、ユニット結成を打診した。
「当時、ヨウコさんのカリグラフィー作品は、依頼主の手に渡ったところで完結するものでしたが、これほどのアートがそれではもったいないと感じました。彼女の作品が、平面から空間へと展開していくことで、さまざまな可能性が広がるだろうと考え、ユニットを結成し、『フラウム』と名付けました。
fRAum は、ドイツ語の『文字(Fraktur)』と 『空間(Raum)』を掛け合わせた造語です。『文字×空間』『アート×デザイン』『手仕事×先端技術』をコンセプトとして、プロダクトや空間におけるアートカリグラフィーの本質的価値を探るべきだと思いました。最初の仕事は『インテリアタイル』メーカーに提案したところ、とても関心を持っていただき、プロダクトが実現しました」(同)
カリグラフィーは紙や印刷物の印象が強いが、空間デザイナーである雲野氏は、商業施設のほか教育施設、医療施設などの空間にも展開していきたいと考えている。さらに雲野氏のブランディングは、ヨウコ氏のアートカリグラフィーを日本のみならず、世界レベルへと引き上げた。
今年1月には岡山県井原市の「IBARA DENIM」のブランディングを手掛け、ヨウコ氏デザインのデニムバッグを仏パリで発表し、世界中から集まったバイヤーやデベロッパー、デザイナーから多くの賞賛を得た。
ヨウコ氏は結成以前から、英ユニリーバ社の洗顔料「DOVE(ダヴ)」の限定パッケージを「yoko fraktur for DOVE」として発表していたが、ディレクションやマネジメントも雲野氏に相談することができるようになり、デザインユニットとしての仕事のやりやすさを実感しているという。ちなみに、同商品は7秒に1本の割合で売れ、即完売した。通常の3倍の売り上げを記録したという。