人目に触れる「手の爪」はいつも清潔にして手入れを欠かさないが、同じ爪でも「足の爪」のケアに注意を払っているという男性は少ないのではないだろうか。しかし、足の爪は適切に切らないと爪自体にトラブルを生むだけでなく、膝や腰にまで影響が及んでしまうという。
では、足の爪を適切にケアしないと、どんな健康被害を招いてしまうのか。正しい足の爪の切り方や器具の選び方などについて、足の爪切り専門店「爪切り屋 足楽」日本橋三越前店の竹之下利恵子氏に聞いた。
深爪がNGな本当の理由
「足の爪なんて、とりあえず短ければ大丈夫」。こんなふうに考えて、足の爪のカットを甘く見ている人はいないだろうか。実は、足の爪は人体において非常に重要な働きを持っており、「ただ短ければOK」というわけではないのだ。
「人間の指は先端まで骨がありません。そのため、爪が骨の役割を担うと共に指先の保護をしています。足の爪は、短すぎると力が入らないし、長すぎても歩きづらくなるので、正しい形、長さに切ることで、その機能がきちんと発揮されるようになるのです」(竹之下さん)
足で地面を踏みつけ、体を支え、重心バランスを整える。そのすべての動作には、足の爪の存在が欠かせない。
「正しく足の爪を切らないと、地面をうまくとらえられず、安定感を損なってしまいます。そうすると、転びやすくなったりつまずきやすくなったりするのです。特に、多くの人がやりがちな『深爪』は、習慣づけてしまうと爪がどんどん小さくなり、指の腹で踏ん張ることができなくなって、指が浮いてしまいます。さらに、足指を使わずに歩くと、足裏のアーチが歪み、バランスが崩れます。それらをカバーしようとして、膝や腰にまで負担がかかってしまうのです」(同)
それに加えて、爪自体にもトラブルが起きてしまう。男女ともに多い症状が「巻き爪」だ。
「爪を正しい形にしておかないと、巻き爪になりやすいのです。とりわけ、仕事用の靴がある人は要注意。職場から支給される靴は自分の足にフィットしなくても履き続けなければいけないため、足のトラブルを招きやすいのです。当店にも、長靴を履く厨房仕事の人や安全靴を履く工事現場で働く人などが巻き爪の相談に来店されます」(同)
靴のサイズは大きすぎても小さすぎてもトラブルの元になる。購入時は慎重にサイズを確認し、中敷きや靴紐で微調整して足にフィットするよう心がけよう。
爪切りの正しいタイミングは?
さらに竹之下さんは、加齢とともに変化する爪の性質も踏まえて、正しく爪を切る重要性を説く。
「足の爪は加齢とともに硬く、厚くなる傾向にあります。若いうちから足の爪のケアを疎かにすると、中年期~高年期には自分で切れないほど爪に異常が出てしまうことも……。早い段階から正しく爪を切ることは、トラブルの予防にもつながるため重要なのです」(同)
では、「足の爪の正しい切り方」とは、どのようなものなのだろうか。実際に施術を受けながら解説してもらった。まず、竹之下さんは「爪切りは事前の準備が肝心です」と言う。
「準備といっても簡単で、お風呂に入るだけ。爪に水分を含ませ、やわらかくさせるのが目的です。乾燥した硬い状態で切ると、爪のヒビ割れや二枚爪の原因になってしまいます。また、足指と足指の間や、足指と爪の間を洗うのもポイントです。老廃物が溜まりがちなところを子ども用の歯ブラシや綿棒などで優しく洗うことで、爪と皮膚との境目が確認でき、カットしやすくなります」(同)
「爪切り屋 足楽」でも、必ず足浴の後にカットを行う。すぐに切りたいという場合は、化粧水などでやわらかくしてもOKだそうだ。
「また、むくみを伴う巻き爪の方は、食い込みによる痛みを軽減するため、先に足のむくみをとるのもおすすめです。足先から膝下まで皮膚の表面を軽く摩り上げて、リンパを流してあげてください。当店でも、状態によっては施術前にリンパセラピーを行い、むくみを解消してからカットをすることもあります」(同)
ここまで準備ができたら、いよいよカットだ。ここで竹之下さんが取り出した爪切りは、ニッパーのような形状のもの。一般的に「爪切り」と聞いて想像するのはクリッパータイプのものだが……。
「ニッパー型は対人では使いやすいですが、セルフカットとなるとプロでも難しいです。家で自分の爪を切る場合は、一般的なクリッパー型のほうがおすすめ。持ちやすく、切れ味の良い爪切りを選ぶといいでしょう。少し値は張りますが、刃物の専門店で売られている爪切りは切り口がザラザラになることもないのでおすすめです。また、爪やすりも爪切りに付属しているものではなく、独立したものを用意するといいでしょう」(同)
足の爪は「スクエアオフ」に整えよう
カットの前に、足の爪の理想的な形を教えてもらった。
「『スクエアオフ』という形を推奨しています。聞いたことがある人も多いかもしれませんが、爪全体を真上から見たとき、角が落ちた四角形になっている形状です。とうもろこしの粒をイメージしてもらうと、わかりやすいでしょう」(同)
この「スクエアオフ」にすることで足先に力が入りやすくなり、巻き爪などのトラブルも防げるのだという。
「次に長さですが、指を先端から軽く押したときに爪が少し触れるくらいの長さが、ちょうどいい長さです」(同)
筆者の場合は、白い部分が2ミリ程度残るのがちょうどいい長さだった。なお、人によって足や指の形、向きはさまざまなので、形も長さも、必ずしも「こうすれば正解」ということはない。スクエアオフでも爪の角が隣の指に刺さってしまうという人は、より丸くしてもいいという。
「切り方は、まず左右の不必要な部分を切ります。ここでどのくらい切るかは、プロによる見極めが非常に重要です。コツとしては、切るというより、ほんの少し落とすことを意識すると良いかと思います。次に、先端をまっすぐに切ります。一気にではなく、少しずつ切るのがポイントです。スクエアオフに整えたら、横方向にやすりをかけて切り口をなめらかにします。やすりは一方向にのみ、少しずつかけてください。最後に、切り口を上から下に向かってやすりがけをすると、ザラザラがなくなってきれいに仕上がりますよ」(同)
切り口をやすりがけすることで、二枚爪や爪が靴下に引っかかるといった事態を防げる。爪切りは、やすりがけまでがセットだと心得よう。さらに、爪を切った後はクリームなどで保湿して乾燥を防ぐことも必要だ。
「スポーツジムや入浴施設など多くの人が裸足になる場所では、知らず知らずのうちに爪水虫や皮膚水虫の菌をもらってしまうこともあります。共有施設で素足になった後は、自宅で足を丁寧に洗うことをおすすめします」(同)
一度正しい形状に切れば、以降はやすりで整えながらその形状を維持すれば、巻き爪や深爪、切り残しなどはある程度回避される。
「お手本の形をつくってもらうだけでなく、プロの目で皮膚病のサインを発見できることもあるので、これまで足の爪に興味がなかった人は、一度プロの施術を体験してみるのもいいと思いますよ」(同)
出血や傷を伴う陥入爪や巻き爪などに悩んでいる人は医療機関へ、それ以外の陥入爪や巻き爪、足裏の角質やタコなどをケアしてほしい人は爪切り専門店やフットケアサロンに足を運ぶのがおすすめだ。自分に合った方法で、足の爪の健康を手に入れてみてはいかがだろうか。
(文=ますだポム子/清談社)