イカスミ、がん細胞やウイルスを破壊する万能食品だった!関節や免疫力の強化にも役立つ
イカスミが、がん細胞を破壊する?
イカスミは、特に日本人が好んで食用にします。日本人は昆布だしやカツオだしのようなうまみが好きですが、イカスミの成分には、うまみ成分のアミノ酸が豊富に含まれているので、日本人の口にとても良く合います。
先ほど「イカスミの役目は自分のダミー」とお伝えしましたが、単なる見た目だけのダミーではなく、アミノ酸を混ぜることによって、おいしいダミーをつくり、敵がそれを喜んで食べている間にイカは逃げるのだと考えられます。
また、イカスミが海中で拡散することなくイカのようなかたちを保っていられるのは、ムコ多糖類の一種であるコンドロイチン硫酸が含まれているからです。
コンドロイチン硫酸は私たちの体の軟骨などの成分でもあり、関節をなめらかに動かすための潤滑油の役目をしている物質です。ムコ多糖は体内で細胞や臓器を保護するさまざまな機能が知られており、免疫力を強化する作用もあるのではないかと考えられています。
血管の中を常に巡回しているマクロファージ細胞は、体内に侵入した病原菌などを破壊して身を守る働きをしています。マウスからマクロファージを取り出し、試験管内でムコ多糖とアミノ酸を与えた後に体内に戻すと、がん細胞やウイルスなどを破壊して処理する能力が8倍に増強された――。
そんな研究結果が1990年代に報告されたことから、イカスミはムコ多糖の健康食品として、その有用性が注目を集めました。
ちなみに、「イカスミがあんなにおいしいのならば、タコスミもおいしかろう」と思いがちですが、タコスミは食料品店でも売っていません。それもそのはず、タコスミは黒色の色素成分こそイカスミと同じですが、ウツボの臭覚を麻痺させて自分の居場所をわからないようにしたり、カニの感覚を麻痺させたりするような特殊な毒が含まれていることがわかっています。
おいしさの元となるアミノ酸もほとんど入っていないので、おいしくはなく、安全性と味の両方の観点から見ても食用には向かないものです。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 環境安全部製品安全グループ 主席部員)
【参考資料】
『食べ物はこうして血となり肉となる~ちょっと意外な体の中の食物動態~』(技術評論社/中西貴之著)
『マギー キッチンサイエンス 食材から食卓まで』(共立出版/Harold McGee著・香西みどり監訳・北山薫訳・北山雅彦訳)