塩分制限で病気増の危険も…十分な摂取がかえって健康的?制限要は高血圧の人のみ?
WHO(世界保健機関)は、2025年までに塩分の摂取量を1日5グラム未満にすることを目標に掲げています。1日5グラムというのは、かなりの減塩ですから、世界的にも塩分を制限することが健康に良い、という考え方があることがわかります。
日本人はかつて平均で1日20グラム以上という、非常にたくさんの塩分を取っていました。そのために高血圧が多く、脳出血も多いという特徴がありました。戦後血圧測定が普及し、血圧を低下させるための減塩指導が始まると、血圧は低下し、脳出血も減りました。このことからわかるように、高血圧の患者さんでは、摂取塩分が多いほど血圧は上がり、血圧が上がれば脳出血などの病気も増えます。
こうした歴史的な事実から、塩分は制限するほど健康に良い、という考えが生まれたのです。
ところが、11年の「JAMA」というアメリカの一流の医学誌に、びっくりするような論文が発表されました。
高血圧の患者さんにおいて、塩分摂取量の目安になる尿中のナトリウムの排泄量を、病気のリスクと比較検証したところ、尿中ナトリウム排泄量が4~6グラムの間が、最も心筋梗塞や心不全、脳卒中による入院のリスクが小さくなり、それより多くても少なくてもそのリスクは増加する、という結果が得られたのです。
尿中ナトリウム排泄量が4グラムというのは、食塩の1日の摂取量が10グラムくらいの場合に相当します。つまり、1日10グラムを切るような塩分制限は、かえって有害な可能性がある、という結果になっていたのです。
ただ、このデータは高血圧の患者さんの臨床試験のデータをあとから解析したものなので、尿中ナトリウム排泄量は病気による影響が否定できません。
そこで、高血圧の方もそうでない方もひっくるめて10万人余という対象者を登録して、前向きにその予後を観察するという研究が、同じ研究者のグループによって14年8月の「The New England Journal of Medicine」という一流の医学誌に発表されました。
その結果によると、尿中のナトリウム排泄量が3~6グラム(食塩摂取量で推定7.6グラムから15.2グラム)の間が最も死亡と心血管疾患の発症リスクが低く、それより高くても低くても、リスクが増加することが確認されました。
要するに11年の「JAMA」の報告とほぼ同じように、塩分量は多くても少なくても動脈硬化などの病気のリスクになっていたのです。