6月15日、世界保健機関(WHO)の専門組織である国際がん研究機関(IARC)が、「コーヒーの発がん性を示す決定的な証拠はない」という調査結果を発表した。
IARCが人間と動物を対象にした1000以上の研究を調査した結果、コーヒーの発がん性の有無について、十分な証拠はなかったという。また、コーヒーを飲むことで特定のがんの発症リスクが低下することを示唆する研究もあったようだ。
ただし、IARCは「どんな飲み物でも、温度が約65度を超えるものであれば、食道がんを引き起こすリスクがあることが科学的に示された」とも指摘している。IARCのクリストファー・ワイルド所長は「非常に熱い飲み物は食道がんの一因である可能性がある」「飲み物の種類ではなく、温度に関係があるとみられる」と説明している。
熱い飲み物とがんには、本当に因果関係があるのだろうか。新潟大学名誉教授の岡田正彦氏は、以下のように語る。
「私が医学生だった頃、講義でこんな話を聞きました。新潟県のある地方で食道がんが多発していることがわかり、学術調査団が乗り込んだそうです。調査の結果、その地方では昔から『煮え立つような熱い朝粥』を流し込んで食べる習慣があることがわかり、それが原因と断定されたということでした。
それ以来、熱い飲み物や食べ物が本当にがんの原因になるのかどうか、私も興味を持って調べてきましたが、外国にも同じことを考える研究者が多く、現在に至るまで、さまざまな学術調査が行われています。しかし、研究者たちが異口同音に述べるのは、調査の難しさでした。
具体的には、大勢の人の生活習慣を調査する必要がありますが、例えば『あなたは、どのくらい熱いコーヒーを飲んでいますか?』という質問をしても、熱さの基準は人それぞれで回答もあてになりません。仮にコーヒーの温度を測ったとしても、飲むまでに冷めてしまいます。
そんな事情もあって、熱い飲み物や食べ物で食道がんが増えるということを証明したデータは多くありません。ただ、南米生まれの『マテ茶』だけは例外で、熱々で飲む習慣のある人には明らかに食道がんが多かったとのことです。また、研究者たちが強調しているのは、一口で飲み込む量が多くなると、なんであっても食道がんのリスクになるということです」