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熊谷修「間違いだらけの健康づくり」

30~50代の「体の虚弱化」が深刻なレベルに…老後に待ち受ける危険な事態

文=熊谷修/人間総合科学大学教授
30~50代の「体の虚弱化」が深刻なレベルに…老後に待ち受ける危険な事態の画像1「Thinkstock」より

 日本では、最良の体の栄養指標である血清アルブミンと健康変数との関係に着目した、幅広いライフステージの疫学研究が極めて少ない。この領域の実践的な研究者が少ないことに加え、医学教育において栄養が健康の総合的な規定要因であることを過小評価している素地が、少なからずあるためである。医療の専門家の多くが、血清アルブミンを治療中の病気が栄養状態の低下につながっていないかチェックする項目として扱っているのは、その典型である。いわば病気の“結果”として体の栄養指標をみているわけである。

 ミドルエイジ以降は軽微なたんぱく質栄養の低下でも(血清アルブミンのわずかな低下)、健康リスクがかなり高まることに注意を払わなければならない。そして、一生涯にわたって健康リスクを回避するためには、たんぱく質栄養を相当程度に良好にしておく必要のあることは本連載前回記事で詳しく解説した。

 今回は、これまで医療現場や健康づくり活動で見過ごされてきた、たんぱく質栄養がわずかに低く、老化による心身の虚弱化(要介護化)が早く進むタイプの人口割合に着目する。健康リスクが高いこの“隠れ虚弱者”の最近の出現トレンドを正視し、今起きている健康問題の深刻さを再認識したい。

 血液中で循環するたんぱく質は数多くあるが、その60%程度を占める血清アルブミンは臨床医学の基準では正常域とされていても、わずかに低下するだけで健康リスクはかなり高まる。この正常低値(ローノーマル)の域帯(レンジ)は3.8~4.2(4.3)g/dLである。ちなみに、筆者はこの域帯をノーマルとは認識していない。

 この正常低値の域帯判断は、信頼性が保証された国際レベルの研究論文と筆者らがかかわる研究フィールドのデータを総合評価した結果である。ミドルエイジ以降、健康リスクは総合的に高まるが、シニアエイジでは認知機能障害、がん、循環器疾患、感染症など日本の主な死因のリスクが上昇する。この血清アルブミンレンジに属するたんぱく質栄養が低い集団の割合は、国民健康・栄養調査結果で確認することができる。

隠れ虚弱者

 2011年と最近公表された14年データで各年齢層の“隠れ虚弱者”割合の数値をグラフ化してみた。まず、11年調査データである。年齢階級の区分は20代から10歳間隔で60代まで区分し、70歳以上は一律に含めている。男性では20~30代は2%台で気になる数値ではなく、大半は血清アルブミンが4.4g/dL以上のレンジに属している。40代から4.5%、60代は25.6%、70歳以上になると43%に跳ね上がる。

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

1956年宮崎県生まれ。人間総合科学大学教授。学術博士。1979年東京農業大学卒業。地域住民の生活習慣病予防対策の研究・実践活動を経て、高齢社会の健康施策の開発のため東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)へ。わが国最初の「老化を遅らせる食生活指針」を発表し、シニアの栄養改善の科学的意義を解明。介護予防のための栄養改善プログラムの第一人者である。東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、介護予防市町村モデル事業支援委員会委員を歴任

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