誤解されている方もいらっしゃると思いますが、抗インフルエンザ薬はあくまでもウイルスの増殖を抑えることで症状の重症化を防ぐものなので、抗インフルエンザ薬自体にはウイルスを撃退する効果や、直接熱を下げる効果はありません。抗インフルエンザ薬によってウイルスの増殖が抑えられている間に、自身の免疫力で発熱などの症状が緩和し健康な状態に戻るのです。
それでも、つらい高熱が続く場合には、解熱剤の使用を検討することになりますが、冒頭で説明したとおりインフルエンザの場合、どの解熱剤を使ってもよいというわけではないのです。解熱剤のなかには、使用するとかえって危険な症状を引き起こす可能性が高くなる薬もあるのです。
インフルエンザの発熱に対して、サリチル酸系(アスピリン・エテンザミドなど)の薬のほか、メフェナム酸(ポンタールなど)やジクロフェナクナトリウム(ボルタレン・ブレシンなど)といった解熱鎮痛剤を使用すると、けいれんや意識障害などを起こす「インフルエンザ脳症」、また脳や肝機能に障害を起こす「ライ症候群」を発症する危険性が高くなるという報告があります。特に5歳以下の子供に発症しやすいといわれています。
1999~2001年にかけて、多くの解熱剤の使用状況を調査した結果、ジクロフェナクナトリウム(ボルタレンなど)とメフェナム酸が、このような作用の強い解熱剤として挙げられたのです。もともとボルタレンやブレシンは、乳幼児で使用されることはほとんどなく、学童~成人向けの解熱剤ですが、インフルエンザ脳炎・脳症で入院した重症例で使用されることがあったのです。
現在では、医療機関を受診してインフルエンザと診断されたり、インフルエンザが疑われる場合に、これらの成分を含む解熱鎮痛剤が処方されることはないとは思いますが、市販薬を購入する際には十分に注意してください。インフルエンザが疑われる場合には、自己判断で解熱剤を服用することはできるだけ避けていただきたいところです。しかし、どうしても医療機関に行けない場合など、市販薬で対処する場合には、必ず薬剤師に相談の上で購入してください。処方薬と同じような名前でも、含まれている成分が異なる場合もあるため、十分な注意が必要なのです。
たとえば、医療用の「バファリン」の主成分はアスピリンですが、市販薬の「バファリンA」の主成分はアスピリン、「バファリンプレミアム」はイブプロフェンが主成分でアスピリンを含みません。
また、小児用バファリンCIIはライ症候群の懸念から、主成分をアスピリンではなく、アセトアミノフェンにしています。