数年前、飲食店従業員が、有名人の来店情報や悪口をリアルタイムでインターネット上に流したり、同僚が食材の上に寝ころぶ悪ノリ写真をツイッターに投稿して、大炎上するといった問題が相次いだ。
いや、今日現在でさえ「匿名ならば大丈夫だろう」とばかりに、職場環境の劣悪さや仕事の愚痴を書き込む投稿の類いは後を絶たない。
そんな投稿者たちは、おそらく「特定厨」と呼ばれる連中の存在を知らないのかもしれない。ネット上には、基本情報や投稿歴から住所・年齢・勤務先・家族構成などの個人情報を特定し、積極的に公開してしまう連中がいるのだ。
結果、一人の従業員の不用意な投稿が、企業の信用崩壊を招き、最悪の場合、倒産に追い込まれる事例も珍しくない。
とはいうものの、職業柄、守秘義務が徹底している医師や弁護士などの世界では、さすがにそんなうっかり案件は皆無だろう――。私たちはつい、そう考えがちだ。
ところが、そんな信頼感をゆさぶりかねない米国の若手医師の実態報告が、4月9日付『BJU International』に掲載された。
医師によるソーシャルメディアの利用のガイドラインも効果薄!?
前例のない研究から驚愕の事実を引き出したのは、米ニューハンプシャー州レバノンにあるダートマス・ヒッチコック医療センターのKevin Koo氏らだ。
医師によるソーシャルメディアの利用に関しては、すでに米国内の複数の医療従事者団体や医療機関がガイドラインを作成してきた。しかし、その普及度と現場での浸透ぶりに、同氏らは疑問を抱いたようだ。
たとえば、米国医師会(AMA)が2010年に発行したガイドラインの場合、医師たる者はオンライン上の投稿を「仕事用」と「個人用」で線引きし、使い分けるように説いている。
つまり、患者とは「適切な職業的距離を保ち」つつ、患者の個人情報を決して侵害しないよう、その重要性を強調してきた。
ところが、ジョンズ・ホプキンス大学(ボルチモア)のMatthew DaCamp氏に言わせれば、「その手のメッセージが、実際にはどの程度、医師らに届いているのかは、いまいち不明」というのが実態のようだ。
今回の調査研究を実施した前出のKoo氏も、「これらのガイドラインの認知度すら明らかでない」と同意している。
Koo氏らは研究を始めるに際し、2015年に米国内の泌尿器研修医プログラムを卒業した医師、計281名の氏名を「Facebook」で検索してみた。
結果、そのうちの72%の医師がプロフィールを公開していた。さらに、その40%相当の新人医師が「プロ意識に欠ける内容」を書き込み、「好ましくないと判断できる」潜在的情報を投稿している事実が浮き彫りになった。