脳につながる動脈に影響を及ぼす脳卒中は、先進国の主要な死因として知られている。
加えて「失業」の憂き目に遭うと、脳卒中による死亡リスクがより高まる可能性がある。そんな最新知見が『Stroke』4月号に掲載された。
しかも、注目のこの研究対象は40~59歳の日本人約4万2000人(男性:約2万2000人、女性:2万人)のデータに基づいたもの。研究陣も大阪大学大学院医学系研究科で公衆衛生学を担当するEhab Eshaks客員准教授らで、余計に興味深い。
15年間に及ぶ今回の分析調査に際し、Eshak氏らは上記の4万人超のサンプルから「雇用変化の長期的影響」を追跡した。その結果、調査期間の15年間で1400件強の脳梗塞あるいは出血性脳卒中が発生し、そのうち400件以上が死亡に至っていることが判明した。
さらに詳細を追うと、15年以上継続的・安定的に雇用されている労働者の場合、仕事を失った人たちに比べて「脳卒中リスクが低い」傾向にある点も認められた。裏返せば、失業体験がある対象層は「脳卒中リスク」が高いというわけだが、その率にも男女差が存在することも読み取れた。
安定的労働層と比べた場合、男性失業者が脳卒中を発症するリスクは1.58倍で、死亡リスクは2.22倍に上昇した。これを女性層同士で比較した場合、発症リスクこそ1.51倍と男性陣と似たり寄ったりだが、死亡リスクの率は2.48倍という結果が弾き出された。
再就職者は発症率は約3倍、死亡リスクは4倍以上に!
さらに「再就職した男性」に関する脳卒中リスクの分析値をみていくと、職場・職種の環境変化に伴う影響力の大きさを思わずにはいられない。
再就職組の脳卒中発症率は2.96倍増し、死亡リスクに至っては4.21倍にも上る――。一方の女性再就職組では、同様のリスク上昇がほとんど現れなかっただけに、なおさらリスクの著しさが際立っている。
この点について研究陣は、古来の日本(人)特有の雇用形態に理由の根源を求めている。
「米国などと違って、日本の男性労働者の多くはいまだ『終身雇用制度』に組み込まれており、その環境下で安定した仕事に専念する傾向がみられる」(Eshab氏)
そのため、ひとたび「失業」の憂き目に溺れると、ある種の「もろさ」が露呈すると指摘している。
「失業のショックから幸い再就職が成就しても、自身の不安定感は変わらない。以前よりも(内容面でも責任性からも)大きな仕事を乞われたり、その新しい仕事を維持するプレッシャーも人一倍であろう。結果、体調不良に見舞われても病欠願いを躊躇したり、病院行きもとかく遠慮してしまうか可能性が(男性転職組には)読み取れる」(同)