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土屋健「楽しい古生物・化石の世界」

魚?未知の生物?実在する「見た目がヤバすぎる」モンスター…正体めぐり世界で一大論争勃発

文=土屋健/オフィス ジオパレオント代表、サイエンスライター

 マッコイたちは、1200を超えるターリーモンスターの標本を詳細に観察した。その結果、ターリーモンスターの体内に「脊索」「軟骨」「鰓(えら)」といったつくりがあることを見いだしたのである。これらは、「無顎類」と呼ばれるアゴのないサカナたちと共通する特徴である。マッコイたちは、ターリーモンスターはもはや謎の生物ではなく、現生のヤツメウナギに近いサカナであると結論づけた。

 この研究結果とともに発表された復元図は、それまでのターリーモンスターのイメージを一新させた。細長いチューブとその先のハサミのような構造や、最大の特徴といってもいい左右に伸びた軸とその先の眼は変わらないものの、それまで横に平たいと復元されていた身体は縦に平たいように変わった(多くのサカナは縦に平たいからだ)。

魚?未知の生物?実在する「見た目がヤバすぎる」モンスター…正体めぐり世界で一大論争勃発の画像2イラスト=服部雅人

 もっとも、「平たい」とはいっても、現生のサカナたちのように、ある程度の厚みを持っているとされた。また、からだの脇には、ヤツメウナギのような円い鰓孔が復元されている。

 翌4月には、イギリス・レスター大学のトーマス・クレメンツたちによって「The eyes of Tullimonstrum reveal a vertebrate affinity」(ツリモンストラムの眼は、脊椎動物のものと類似性がある)と題された論文が「nature」に発表され、「ターリーモンスターはサカナだった」という説は盤石になったとみられた。最初の報告から50年の時を超えて、モンスターの正体が判明したのである。

サカナ説は誤認?解決されないモンスターの謎

 ……とは、実はいかなかった。これが、古生物学のおもしろいところである。17年1月、より専門性の高い学術誌である「Palaeontology」に、アメリカ・ペンシルヴァニア大学のローレン・サランたちが「THE ‘TULLY MONSTER’ IS NOT A VERTEBRATE」(「ターリーモンスター」は脊椎動物ではない)という文言から始まるタイトルの論文を発表したのだ。

 サランたちは、マッコイたちやクレメンツたちが脊椎動物の根拠として挙げた数々の証拠を検証し、それらを否定していった。たとえば、ヤツメウナギに近いサカナの根拠とされた脊索といった構造はこの化石産地では保存されない、などについて指摘した。ほかのサカナの化石にはこうした構造が保存されておらず、ターリーモンスターの場合だけそれが残るのは不自然である、というのである。有り体に書いてしまえば、つまり、マッコイたちは“誤認していた”のではないか、というわけだ。

 検証の末、サランたちは「ターリーモンスター(ツリモンストラム)は、脊椎動物のグループに含めるべきではない」と結論づけた。つまり、謎は謎に戻った、ということになる。サランの所属するペンシルヴァニア大学は「 ‘Tully Monster’ Mystery Is Far From Solved」(「ターリーモンスター」のミステリーは、解決からはほど遠い)とするプレスリリースを発表した。

土屋健/オフィス ジオパレオント代表、サイエンスライター

土屋健/オフィス ジオパレオント代表、サイエンスライター

修士(理学) 日本古生物学会会員 日本地質学会会員 日本文藝家協会会員
日本地質学会刊行一般向け広報誌『ジオルジュ』デスク
オフィス ジオパレオント

Twitter:@paleont_kt

『石炭紀・ペルム紀の生物』 恐竜時代の前の時代に当たる石炭紀とペルム紀。 この二つの時代に一体何が起こったのか? 地球上の生命史において、石炭紀・ペルム紀はどういう意味を成していたのか? 二つの紀の化石をひもときながら、この時代を懸命に生きた古生物の姿に迫ります。 amazon_associate_logo.jpg

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