上司の「無自覚パワハラ」が部下を自殺に追い込む…いまだに職場でパワハラが増えている理由
なぜ、パワハラが起きるのか? なくならないのか?
なぜ多くの企業において、いまだ職場のハラスメントがなくならないのか、その背景や理由について、年間1000人の働く人と面談を行っている産業医の立場から2つ述べさせていただきます。
1. ハラスメント加害者側の「無知」「無自覚」「想像力の欠如」
職場のハラスメントが減らないひとつめの理由は、「思いやり」や「道徳心」の欠如として片づけられないほど、その根はもっと深いと私は考えます。それは、ハラスメント加害者側の「無知」「無自覚」「想像力の欠如」です。そもそも、自覚を持って「相手をいじめたい」「ハラスメントしたい」と考える人はいないと私は信じます。
しかし残念なことに、他人にしてはいけないことを教わっていないから知らない人(無知)、自分の行為がハラスメントに該当することに気がついていない人(無自覚)、自分はそのような指導を受けてきてハラスメントとは感じなかったので同じ指導をしているという人(想像力の欠如)など、いろいろな人がいるのが現実です。
2011年、仙台市の運送会社にて、22歳の男性社員が自殺してしまう事件がありました。自殺の原因は上司のパワハラによるうつ病のためと、仙台地裁が労災を認定しました。自殺した男性社員は上司から足元に向けてエアガンを撃たれたり、唾をかけられたりしたそうです。
私は、このハラスメントをした上司自身が同じような指導を若い頃に受けてきたかは知りません。しかし、この上司は自分の行為が、部下にこのような気持ちを引き起こすという考えすらなかったのだと思います。ましてそのことが、自殺につながることまでは考えもつかなかったでしょう。たとえ自殺まで想像できなくても、前途有望な若者に暗い影響を及ぼしてしまうだろうという想像力の欠如、相手の立場や気持ちを察することができないという想像力不足は、悔やんでも悔やみきれません。