AIによる需要予測システムが、食品ロスの削減のカギを握っている
16年12月、さまざまな経営課題の解決に貢献しているSAS Institute Japanは、AIを活用し、食品の需要予測、在庫最適化、売上向上、人員削減などの諸問題へのアプローチを強化するために、食品ロス問題を解決する統合ソリューション「SAS for Demand-Driven Planning and Optimization」を国内で初めて公開した。
AIを活用した需給分析ソリューションとはなんだろうか。一言で表せば、「AIに蓄積した膨大な食品の製造・流通データをベースに、需要予測、予測モデル、シナリオ分析、在庫最適化、サプライチェーン評価などを統合したプラットフォームジステム」だ。このAIによる需要予測システムが、食品ロスの削減のカギになるかもしれない。
AIの需要予測システムといえば、日本気象協会も、AI技術で気象データを科学的に分析し、需要予測を行い、食品ロスの解消につなげる省エネ物流プロジェクトを発表している。
発表によれば、AIによって過去の気象情報と気象条件に基づく人間の行動パターンを解析し、その需要予測データを活用して、合目的で最適な生産量を算出しながら、食品ロスの削減とリバース物流(返品・返送・廃棄)によって発生する二酸化炭素の低減化をめざしている。
具体的には、メーカーと卸売・小売業社が協力(Collaborative)しながら、食品の販売計画(Planning)、需要予測(Forecasting)、在庫補充(Replenishment)を行いつつ、欠品防止と廃棄食品の削減を両立させる。これが「CPFR」と呼ばれる統合的なビジネス手法だ。
たとえば、賞味期限が短い豆腐は、材料の入荷からパッケージまでに2~3日かかるため、小売店からの受注後に生産すると出荷に間に合わない。そのため、生産者の売り上げ見込みに基づいて生産し、売り上げ見込みが外れると廃棄ロスが発生する。
しかし、AIと気象予測による需要予測データを活用し、生産者の売り上げ見込みベースから小売店の注文ベースに変更したところ、見込みと注文のギャップが解消され、小売店の機会ロスも食品ロスもなくなった。
省エネ物流プロジェクトの試算によると、このCPFRの経営手法を全国展開すれば、豆腐の食品ロス約5840トンを削減できるとしている。さらに、商品価格、曜日、気象条件などの情報をAIに機械学習させると、売り上げや来店客数の予測の精度も向上したため、CPFRの経営手法は、食品ロスだけでなく、人件費削減や働き方改革にも役立つという。
冷凍・冷凍設備の最適化によるAIのアプローチもある。4月、パナソニック産機システムズ株式会社は、効率的な店舗経営や省エネなどの保全業務を支援する食品小売業向けの冷蔵・冷凍設備運用サービス「エスクーボシーズ」を立ち上げた。
エスクーボシーズは、IoT(モノのインターネット)の遠隔監視によって省エネを実現し、AIによる運転データの解析によってコストダウンを図るため、経費削減と食品の鮮度管理が徹底され、効率的な事業経営の支援につながる。
このようなAIによる需要予測システムや、生産設備の最適化によるAIのデータ解析アプローチが、食品ロスの削減のカギを握っていることは明らかだ。
食品ロスの元凶は、消費者の強い「鮮度信仰」に惑わされた、食品流通サプライヤーの過大な鮮度の追求の結果とみることもできる。食品ロスを見直すためには、賞味期限と消費期限の正しい認識を消費者に提起しながら、AIやビックデータによる行動分析、需要予測を実行し、食品流通サプライヤーが足並みをそろえるべきだ。
食品ロスも飢餓もない世界――。それは奇跡などではなく、幸福を求めてやまない人類の永遠のミッションだろう。
(文=佐藤博)
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。