ウイスキーやブランデーで興味深い「男女差」
また、ビールとなると低減効果に男女差が生じた。女性層では有益性が認められなかったものの、男性層の「週1~6杯」対「週1未満」比較では、前者のリスクが21%低かった。
さらに、こうした飲酒による有益性は「ワイン」と「ビール」に限られて現れ、ウイスキーやブランデーなどの「蒸留酒」については男性の場合、低減効果が認められなかった。しかし、逆に女性で「蒸留酒を週7杯以上」飲む層では83%のリスク減が現われたそうだから面白い。
蒸留酒に関する一般認識というか、サイト上などでも以下のような表現をよく見かける。
「アルコール飲料のなかでも、日本酒・ビール・ワインは糖質を含みます。一方で、蒸留酒と呼ばれるもの(ブランデー・ウイスキー・焼酎など)は糖質を含みません」
これは糖尿病患者とお酒の上手な付き合い方に触れている検索上位サイトの記述例だが、続いて<そのため、糖尿病患者さんが飲酒する場合には蒸留酒のほうが良いといわれています>と、今回の知見結果とは違って、効能の「男女差」には何も触れていない。
「善玉」も個人差次第?
実際、酒席における飲酒論議でも「飲むならば焼酎がいいらしい」とか、ワインの消費量の多いフランス人の生活習慣病を防ぐ「フレンチ・・パラドックス」など諸説入り乱れている。むろん今回の知見に関しても、疑義を差しはさむ専門家の論陣も存在する。米国・メイヨークリニックのAdrian Vella氏もその一人で、こんな見解を示している。
「今回の研究では、飲酒と糖尿病リスクとの関連が示されたに過ぎず、この結果を根拠に2型糖尿病予防のために飲酒頻度を増やすことは奨励できない」
その理由としてVella氏が強調するのは、研究の限界点としての次の3点だ。
①飲酒量が調査参加者の自己申告による点
②リスク低下に影響するその他の因子(各自の運動習慣や糖尿病の家族歴など)が考慮されていない点
③観察期間が約5年と短い点
どれも納得いく指摘だ。確かに、今回の知見は実験でも臨床試験でもなく、「観察研究」の成果だ。つまり、両者の因果関係が認められていない点はTolstrup教授も認めているが、報告はこう締められている。
「従来の研究において、飲酒によりインスリン感受性が高まる点や、空腹時のインスリン抵抗性が改善する可能性が示唆されており、これが糖尿病の進行抑制に重要な役割を果たしていることも考えられる」
「酒は百薬の長」といえど、大量飲酒が逆効果なのはリスクの病種を問わない。酒類の相性にも個人差がある。美酒の勢いで肴を摂り過ぎては「薬」の意味がない。くれぐれも「ほどほど」に。
(文=ヘルスプレス編集部)