シニアの健康に関する科学が進展するにつれ、超高齢社会における健康づくりは個別の病気のリスクを取り除くより、老化を速めてしまうリスクを特定し制御する手段を実践したほうが有用なことがわかってきた。
そして老化を遅らせるには、良好な栄養状態が欠かせないことも長年の老化研究で明らかになっている。本来、大切な脂質栄養であるはずのコレステロールがメタボ対策では心臓病リスクを高めるファクターとして、一方的にバッシングの矢面に立たされている。この現状は、小欄の科学良識からして看過できないため、コレステロール重要論を少し長めに繰り広げてきた。
さて、この連載の核心に向かうため、老化を遅らせる手段開発へと話を進めよう。動物実験ではない社会生活を営む人間の大集団を対象とした実践科学データが蓄積され始め、老化を遅らせるのに有効な手段が少しずつ判明している。
ちなみに、ネズミやサルを対象とした老化研究は枚挙にいとまがないが、私たちのライフスタイルの変更に迫るだけの説得力のあるものは皆無である。サーチュイン遺伝子研究の解釈の誤りは、以前述べたとおりである。人間の大集団を対象にした研究成果は、意外なほど少ないのである(少人数グループの研究はある)。
老化を防ぐ手立てというと多くの方々は、運動、特に“筋肉トレーニング”を連想するのではないだろうか。ところが筋肉トレーニングが実際に老化を遅らせることを示すデータは小欄の知る限りない。老化遅延の効果には、長期と短期のものがある。筋肉トレーニングの効果はほぼすべてが上肢と下肢の筋力アップに限定された短期効果である。短期効果では老化の遅延効果ありとはならない。筋力アップトレーニングをすると余命が延びるという人間集団を対象にした長期効果は確認できていないのである。
これに対し、食事を改善し栄養状態を良好にすると余命が延びるという老化遅延の長期効果は、明瞭に確認できている。病気とからだの虚弱化の双方の予防を目指すのであれば、栄養手段から着手するのが合理的である。