このように日本人の平均寿命は、この100年余りで2倍近くになっており、老化速度が半分に減速したことを意味する。比類ない世界一老化の遅い民族といえるが、世界最速で寿命を延ばした民族でもあることを忘れてはならない。
食事の大改革
特筆に値するのが、この老化の遅れの大半は1947年以降で達成している点である。戦後の食品や栄養摂取量の変化は目を見張るものがある。戦後間もない復興期は食生活の改善はなかなか進まない。公衆衛生の整備が最優先された。下水道整備の前にドブに蓋をしなければならなかった。食生活が大きく変化し国民が広く享受するのは64年東京オリンピックが開催された頃からである。
実は戦後の平均余命の伸長期で、65年から80年の伸び率が最も大きい。この時期、先行して魚介類の摂取量が増え(昭和30年ころから)、あとを追うかのように肉類、卵、牛乳・乳製品、油脂類の摂取量が増えた。卵が10個パックで売りだされたのが昭和43年である。同時期、食品流通網でコールドチェーンが確立し肉の薄切りのパックがスーパーの店頭に並び始めた。一部の層が摂取するのではなく、国民の多くがいろいろな動物性食品と油脂を摂取できるようになったのである。
総エネルギー摂取量は増えることなく脂肪エネルギーが増加するという特徴のある変化を伴った食事の大改革が進んだ。この大変化とともに、平均寿命が大きく延びたのである。
このような食品摂取形態の変化を40年程度の短期間で成し遂げた国民は、今のところ日本人のみである。日本人は、社会生活を営む人間がどのような食事を実践すると老化が遅くなるのか、国をあげて実験したようなものである。動物性たんぱく質食品と脂肪の摂取により栄養状態が改善し、老化が遅れさまざまな病気が予防できるようになり、寿命が延びたのである。歴史的な状況証拠を見る限り、命の量を増やす食品は魚介類に加え肉類、卵、牛乳・乳製品、脂質を食べることとなる。
それでは、要介護を防いで命の質を高める食品は何かについて、次回、解説する。
(文=熊谷修/東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、学術博士)