コーヒーの苦みを「おいしい」と感じるようになったのは、いつの頃だったでしょうか。コーヒーの独特で複雑な味わいは、子どもの頃に飲んだミルク缶コーヒーとはまったく違う大人の味です。
コーヒーの木はアフリカ原産で、古くは葉と実をお茶のようにお湯で出して飲用していました。コーヒーの豆を最初に煎って飲んだのは14世紀のイエメンだという説があります。その後、18世紀にヨーロッパへ伝わり、アメリカ大陸の植民地に持ち込まれたことがきっかけで、南米が一大産地になりました。
コーヒーを煎るようになった直後は、粉砕した豆を砂糖水と共に鍋に入れ、沸騰させた上澄みを飲んでいました。この飲み方は今でも中東では行われていますし、日本でもこの方法で淹れたコーヒーを出す喫茶店もあります。
ですが、味も食感も悪い豆の粉が口に入るため、あるときフランス人が布袋の中に豆の粉を入れることによって、ティーバッグのようにして透明なコーヒーを淹れて飲用するようになりました。布の上に挽いた豆を敷き、上からお湯を注ぐドリップ式が発明されたのは1750年頃のフランスでした。
この方法は豆から溶け出す苦み成分が少なくなるため、酸味や香りが強くなり、ヨーロッパ人の嗜好に合ったのでコーヒーが大流行しました。
コーヒーに含まれる化学物質の代表であるカフェインは、脳に働きかけて疲労を感じさせなくする強力な作用がありますが、コーヒーの味にはかかわっていません。コーヒーの苦みはさまざまな化学物質が複合的に舌に作用した結果ですが、そのなかでも代表的な成分はクロロゲン酸です。
クロロゲン酸が焙煎されて酸素と結合したり構造が壊れたりすることによって、多くの苦み成分が豆の中で生成されます。同じ産地のコーヒーでもお店によって味が違うのは、淹れ方はもちろん、焙煎で生じる苦み成分が焙煎条件によって異なるためでもあります。
浅煎り状態の主要な苦み成分は生の豆に含まれるクロロゲン酸ですが、深煎りにすると、クロロゲン酸はフェニルインダンに変化します。特に高温・高圧で抽出するエスプレッソコーヒーの苦み成分の主役はフェニルインダンです。
コーヒーを飲む人は死亡リスクが17%低下?
コーヒーの人体への影響について、イギリスのサウサンプトン大学の研究者が、各国でこれまでに発表されたコーヒーの研究論文からデータを収集し、大規模解析を行った結果を報告しています。それによると、コーヒーを飲むことについては有害性よりも健康に良い効果のほうが上回るとされています。
コーヒーをまったく飲まない人と1日に3~4杯飲む人の比較を行った今回の報告では、コーヒーを飲む人の死亡リスクは17%、心血管疾患リスクは15%、がんリスクは18%、それぞれ低くなるという解析結果が得られました。さらに、統計的な差はなかったものの、神経疾患、代謝性疾患、肝疾患のリスクを下げる傾向もあるようです。一方で、コーヒーを飲むことによって明らかに悪化する疾患は見つかりませんでした。
『食べ物はこうして血となり肉となる~ちょっと意外な体の中の食物動態~』 野菜を食べると体によい。牛肉を食べると力が出る。食べ物を食べるだけで健康に影響を及ぼし気分にまで作用する。なんの変哲もない食べ物になぜそんなことができるのか? そんな不思議に迫るべく食べ物の体内動態をちょっと覗いてみよう。