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死人を蘇らせる研究…天才マッドサイエンティストが確立した(?)蘇生法

文=水守啓/サイエンスライター

タバコ浣腸と溺死体の蘇生

 新大陸からもたらされたタバコは当初、西洋人にとっては魔法の薬であった。北米インディアンがタバコを神聖なものとみなし、宗教的な儀式や薬用にタバコを多用していたのを目にしたからである。ヨーロッパの医療従事者らは、まずはタバコの煙で風邪や睡魔と戦い、その後、さまざまな用途に応用していくことになった。

 たとえば、タバコ浣腸は排便を促し、腹痛に効果があるとしてインディアンによって行われてきた治療法であったが、ヨーロッパの医師らはそれを溺れた者の蘇生やヘルニア症状の緩和にも有効なことに気づいて推奨した。そのため、専用の器具も発達し、19世紀初め頃まで普及していったのである。

死人を蘇らせる研究…天才マッドサイエンティストが確立した(?)蘇生法の画像1タバコ浣腸に使われた器具

 溺れて死の淵に立つ者に対して、まずは樽の上に乗せて揺らすことが行われた。また、ふいごを使って口の中に空気を送り込むことも行われた。だが、それでも意識を取り戻さない場合には、タバコ浣腸が利用されることになった。具体的には、患者をうつ伏せに寝かせ、肛門に器具を差し込み、直腸に向けてタバコの煙を送り込んだのである。

死人を蘇らせる研究…天才マッドサイエンティストが確立した(?)蘇生法の画像2

 当時の医療従事者にとって、仮死状態にある患者への適切な治療とは、温めることと刺激を与えることだった。タバコは体を温める効果があると考えられてきたため、タバコ浣腸はその両方に応えうるものとみなされ、普及していったといえるだろう。

 だが、19世紀の初め頃、タバコの煙に含まれるニコチンが血行を阻害する毒性を持つことが発見され、タバコ浣腸は衰退していくことになった。

 記録によれば、タバコ浣腸には一定の効果が得られていたとされている。確かに、タバコ浣腸は、腸内で有毒なアミン等の発生原因となりうる腐敗便(消化不良残渣)を早期に排泄させることに役立つと同時に、いくらかの殺菌効果が得られた可能性はあるかもしれない。だが、腸内での異変とは無関係と思われる「溺れた者」に対する効果は、「刺激」以外に説明は難しそうである。

溺死動物の蘇生

 溺れた者がタバコ浣腸で蘇生したとされるケースにおいては、あくまでも仮死状態にあり、本当に死に至っていたとは考えられない。だが、臨床的に死を確認した動物を蘇生させていたとするケースがいくらかある。ただし、その蘇生に利用された方法はタバコ浣腸ではなく、さらに謎に満ちた方法であった。

 かつて神童と呼ばれ、米UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で動物の蘇生について研究を行っていたロバート・E・コーニッシュ博士(1903-1963)は、死んだ犬だけでなく、人間をも蘇生させようとしたマッドサイエンティストとして知られている。

 コーニッシュ博士は、溺れた動物に対するそれを含め、それまで知られてきたさまざまな蘇生法を実験してきたが、最終的に、アドレナリン、肝エキス、アカシア樹脂、血液の混合物を大腿部に注射し、シーソーのようなボードの上に死んだ動物を乗せ、揺らすことで蘇生に成功したとされている。

死人を蘇らせる研究…天才マッドサイエンティストが確立した(?)蘇生法の画像3コーニッシュ博士は死体を台に乗せ、揺らして蘇生を行った。

 たとえば、1934年、コーニッシュ博士はフォックス・テリア犬を窒息させて、心臓が止まって5分後に蘇らせることに成功。翌年にも成功している。ただし、死後5分以上経過した犬においては、うまくいかなかったという。

死人を蘇らせる研究…天才マッドサイエンティストが確立した(?)蘇生法の画像4実験に利用された犬

 このようなコーニッシュ博士の研究は医学的に注目に値したものの、当然のことながら周囲の反発を買った。そして、UCLAの研究室から追い出され、コーニッシュ博士は自宅での実験・研究を余儀なくされた。

 コーニッシュ博士は、自分の研究が価値あるものであると人々に伝えたかった。そんな折、彼の研究を描いたホラー映画『ライフ・リターンズ』がユニバーサル・ピクチャーズによって製作・公開されたのである。同作品では、実際に行われた実験の画像が使用され、当時の人々にはリアリティーを与え、しばらく人々の記憶に残されたようである。

死人を蘇らせる研究…天才マッドサイエンティストが確立した(?)蘇生法の画像5コーニッシュ博士を描いた映画『ライフ・リターンズ』

死人を蘇らせる問題点

 1947年、少女らの殺害で死刑判決を下されていたトマス・マクモニグルはコーニッシュ博士に連絡を取り、突拍子もない申し出を行った。それは、カリフォルニア州のサン・クエンティン州立刑務所で予定されていた死刑執行の後、自身の体を蘇生実験に提供したいというものだった。コーニッシュ博士にとって、それは自身が発見した理論を証明する絶好のチャンスであった。

 だが、蘇生を成功させるには、犬の実験でわかったように、死刑執行後数分以内に死体を確保せねばならなかった。コーニッシュ博士は、同刑務所に死体の即時引き渡しを求めたが、クリントン・ダフィー所長は断固反対した。そして、マクモニグルはガス室での死刑に決められた。それにより、執行後少なくとも1時間、ガスが抜けて安全が得られるまで入室できるものではなくなり、事実上、蘇生の機会が断たれることになった。

 そんな対応に対して、コーニッシュ博士は不満を表明し、ダフィー所長との確執は新聞紙面を賑わせることとなった。

 実は、コーニッシュ博士の前に立ちふさがった問題はそれだけではなかった。蘇生が成功してしまうと、さらに複雑な法的な問題を引き起こすことが考えられ、議論を呼んだのである。すなわち、罪人が死刑執行後に生き返った場合、すでに罪を償ったとして、釈放せざるをえないだろうという問題である。そんなことを考えると、ダフィー所長の対応は適切なものだったということになるのかもしれないが、結局のところ、1948年にマクモニグルの死刑が執行され、もちろん、蘇生処置は行われることはなかった。

 さて、コーニッシュ博士が本当に有効な蘇生法を確立していたのだとすれば、いったいその秘密はどこにあるのだろうか。コーニッシュ博士によると、体を揺らすことは、心拍動の代わりとなり、血液の循環を生み出すとされた。大腿部に注射されたアドレナリン、肝エキス、アカシア樹脂、血液の混合物は、蘇生と生命維持に基本的な物質が含まれると思われるが、具体的にそれがどのように効果をもたらすのか、詳細はわかっていない。

 なお、蘇生の過程において、コーニッシュ博士が口に酸素を送り込むと、死体は足をピクッと動かし、喘ぎ声を発し始め、心臓の鼓動が認められるようになったという。倫理上の問題から、実験の再現は難しいように思えるが、注射した特別な物質と、揺らすことによる血流の促進は、生命誕生や蘇生になんらかの影響をもたらしている可能性はありそうだ。そう考えると、ただのマッドサイエンティストの奇行として片づけてしまって良かったのか、気になってしまうのは筆者だけであろうか。
(文=水守啓/サイエンスライター)

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