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「中高年のための防災」を専門家に聞く 風呂水はNG?ご近所付き合いがカギ?「

文=松嶋千春/清談社
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2020年7月の熊本豪雨の被災地の様子(「gettyimages」より)

 毎年のように大規模な豪雨災害が発生し、小規模地震も頻発する災害列島・日本。南海トラフ巨大地震や首都直下地震の発生も確実視される昨今、高齢者の親に自身の世帯と守るべきものが多い中高年世代は、どういった備えが必要か。

中高年のための「読む防災」 一度読んでおけば一生安心!』(ワニブックス)の著者である災害危機アドバイザーの和田隆昌氏に、災害の特徴や防災のポイントについて聞いた。

山間地や河川周辺は水害リスクが大

 2017年の九州北部豪雨、18年の西日本豪雨、19年の千葉県豪雨、そして20年の熊本豪雨と、近年は毎年のように各地で豪雨災害が発生。河川の氾濫や土砂崩れ、浸水被害が起こり、数十名規模の死者が発生するケースもあったが、そのような甚大な被害に至る要因は何なのか。個々人の避難の判断によるところもあるだろうが、和田氏によれば、水害は自己責任論では片付けられない問題をはらんでいるようだ。

「水害というのは、基本的に地形の問題であって、被害の度合いは生活する地域や自宅周辺の環境が大きく影響してきます。今、大雨の降りやすい山間を切り崩して、どんどん住宅地に変えてしまっています。山間地や扇状地(山からの土砂により形成された土地)は土地代が安いため、リスクの高い場所に住んでしまう人はどうしても出てきてしまいます。法制度をもう少し厳しくしないと、そうした危険な土地に住む人は今後も絶えないでしょうね」(和田氏)

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『中高年のための「読む防災」 一度読んでおけば一生安心!』(ワニブックス/和田隆昌)

 21年7月の伊豆山土砂災害では、死者22名、行方不明者5名、半壊・全壊の家屋が131棟という甚大な被害が出た。和田氏によれば、土砂災害は人為的要素が関わる場合が多いというが、伊豆山のケースでは、土砂の崩落の起点に大量の建設残土が廃棄されていたことが明らかになっている。

「現場に行けば一目瞭然ですが、山が海岸に迫る急峻な斜面を住宅地として切り開いた場所のため、(大量の降雨など)条件が揃えば土砂災害は発生しやすい環境にあり、ハザードマップの警戒区域にも指定されていました。山頂から流れる川沿いに大量の土砂が流れ落ち、その周辺の家屋が全壊・破壊の被害に遭っています。その起点に盛り土をして長年放置されたことが被害を拡大させたと推測されます」(同)

 伊豆山周辺の同様の条件の斜面では軽微な土砂崩れは恒常的に発生していたが、このような大規模な被害は初めてのことだった。

「降雨量の増加は全国的に右肩上がりで、土砂災害の発生件数は全国的に上昇傾向にあります。同様の傾斜地では、これまで被害がなかったとしても発生する可能性も考えないといけません」(同)

 山間地や扇状地のほかにも、水害リスクの高い土地があるという。

「河川の周辺や低地、または傾斜地などが近い場合には水害・土砂災害のリスクが高くなります。ハザードマップなどで、まずは周辺にどのようなリスクが存在するかを確かめることが重要です。また、水害に対しては何よりも早く正確な情報収集が効果的。リスクを感じる地域では普段から気象情報に留意し、早めの避難行動をすることで生命の危機は回避できるでしょう」(同)

 では、普段からできる水害対策とはどんなものだろうか。

「戸建ての家屋、マンションのなかでも、1階住居は被災の可能性が高くなります。浸水のリスクの高い地域では床下浸水を防ぐために土嚢などの準備をすることも、軽度の浸水に対してはひとつの対策になります。大雨の降りやすい地域はもちろん、これまで浸水被害に遭ったことのない地域でも、近年の降雨量の増大によって被害を受ける可能性に留意しておきたいですね」(同)

避難所の集団生活で感染症の危険も

 集中豪雨に地震まで重なる……これほど恐ろしい複合災害はないが、避難所においても、自然災害+感染症という複合災害が起こりやすい条件が揃っている。

「避難所では過去にも、インフルエンザやノロウイルスが発生するケースが多くみられました。各地の避難所では収容人員を減らしたり、パーテーションを作成したりするなど『密』を防ぐ対策を行っていますが、リスクの高い高齢者や持病のある方は、自らが十分な防疫のための準備をすることが求められます。マスクはもちろん、トイレのドアに触れた後や、共有物に触れた後の手洗いを厳重にする必要があります」(同)

 災害が起こると「とりあえず避難所へ」という意識が働くが、自宅で安全が確保できるのであれば「わざわざ感染症のリスクの高い避難所に行く必要はない」と和田氏。

「避難所に行かなくてすむように、自宅の安全確保や備蓄を充実させておくことも必要です。地域の避難所だけが避難場所ではないので、親戚・友人宅などへの『分散避難』や『車中避難』などの選択肢を用意しておきましょう」(同)

 災害対策でまず思いつくものといえば、食料や水などの備蓄。食料については配給があるため3日分もあれば十分だが、水は多めに備えるべきだという。

「十分な水がないとすぐに健康を維持できなくなるので、水の備蓄を最優先しましょう。給水が始まったとしても給水所に並ぶのも大変ですし、マンションなどでエレベーターが止まっていたら、水を運ぶのも負担になります」(同)

 水なら何でもいいというわけではない。感染症で生死をさまよった経験のある和田氏は、風呂水を使うことのリスクを強調する。

「一晩経った風呂水は、大腸菌の数が元の200倍を超えてしまいます。汚れた水を使うことは食中毒などの感染症にかかるリスクが非常に高いので、風呂水を溜めるのはお勧めできません。トイレを流すにしても、配管が壊れていたら水を流せませんし、沸かしたところで飲めません。それよりも、水道水をペットボトルに入れてためておけば、手を洗ったり、沸かして飲んだりと使い道があります」(同)

スマホよりも大事?な地域コミュニティのつながり

 もし自宅が危険な状況で避難所に行く必要がある場合には、現地の備蓄があるため、持参する水や食料は最小限でいいそうだ。

「健康被害に遭わないための衛生用品や、安眠のためのアイマスクや耳栓などは忘れずに持って行きたいです。情報収集に欠かせないスマホのバッテリーは複数、できればソーラータイプも用意しておくと安心です」(同)

 災害発生時、スマホや電話で家族と連絡が取れないこともあり得る。そんなときのために、別の連絡手段を持つことも念頭に入れておく必要がある。

「家族で安否確認の方法や集合場所について相談しておくことはもちろん、地方においては特に、地域住民同士のコミュニティが重要になります。『家にいなかったら避難所もしくは○○さんの家に行っている』『家にいなかったら○○さんに聞けばわかる』といった具合に、言付けをお願いできるご近所さんを5人ぐらいつくり、何かあったら互いに見回りや声かけをできるように話し合っておく。こうした地域のコミュニケーションが最終的なライフラインになるわけです」(同)

 巨大地震が数十年以内に起こるとも言われているが、「○年以内」という数字に左右されない心構えが大切だ。

「『数年以内』『数カ月以内』という根拠はまったくありませんが、今や『今日』起きるかもという前提で準備をすべき、切迫した危機であると言っていいでしょう。自宅や寝室の安全確保をまず優先し、避難場所の確認、インフラ回復までの備蓄など、今日やれることから始めておきましょう。

 みなさんお気づきの通り、日本列島は大きな災害が頻発する大災害時代になっています。この傾向は今後も継続し、さらに拡大すると考えられます。そんななか、中高年の方はどうしても自分の経験した範囲内で状況を判断する傾向にありますが、近年の災害の傾向は過去の経験値を超えて発生しています。被災者にならないためには『最悪・最大』の状況を想像すること、新たな知識や常識を常に入手して、この日本の危機に備えることが、自分と大切な家族を守ることにつながることを知ってほしいと思います」(同)

 災害のたびに危機意識は呼び起こされるものの、しばらく経つと喉元を過ぎていってしまいがちだ。自分や身の回りの大切な人のために、防災の備えを見直してみてはいかがだろうか。

(文=松嶋千春/清談社)

●「災害危機管理アドバイザー和田隆昌のブログ

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せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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