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堀田秀吾「ストレス社会を科学的に元気に生き抜く方法」

少ない睡眠時間でも快適かつ有益に過ごす方法

文=堀田秀吾/明治大学法学部教授
少ない睡眠時間でも快適かつ有益に過ごす方法の画像1「Gettyimages」より

 秋の夜長、みなさんはいかがお過ごしでしょう。夜長とはいえ、忙しくビジネスパーソンライフを送っている皆さんには、仕事のプレッシャーや忙しい日々のストレスで、眠りが浅い、寝付きが悪いなど、結果的に寝不足で一日を過ごしている方も少なくないのではないでしょうか?

 経済協力開発機構(OECD)が2014年に行った調査では、日本人の平均睡眠時間は、世界でも最低水準(加盟 26 カ国の平均睡眠時間は 8 時間 19 分、日本人は 7 時間 43 分で下から二番目)だったそうです。04年に発表された米ペンシルバニア大学のドンゲンらが行った実験によると、頭がクリアな状態で一日を生産的に過ごすためには1日8時間の睡眠が必要だということ。しかし、仕事や会食、飲み会、帰宅してからも家事の負担など、日々忙しく過ごしているビジネスパーソンには、非現実的だという方も多いでしょう。

 睡眠不足だろうがなんだろうが、容赦なくやってくるのが、納期、締切、トラブルです。24時間という時間だけは、地球の自転の速度を変えない限り変えられないし、やることを減らすこともできない。八方塞がりです。

 しかし、そんなみなさんに朗報です!

 米コロラド大学の研究で、寝不足の日でも効率的に過ごせる方法が発見されたのです。それはなんと、「あ~今日はよく寝たなー」と頭の中で思い込むことなんです。なんだか冗談みたいな話なのですが、これが科学的に有効であると証明されたのです。

 この実験では、被験者に実験を行う上での必要な知識として、「大人は睡眠時間の20~25%がレム睡眠であり、これよりもレム睡眠の割合が少ない場合、テスト等では低いパフォーマンスしか発揮できない。反対に、睡眠時間の25%をレム睡眠で過ごした場合、テストでは高いパフォーマンスを発揮でき、良い成績を収められる」という嘘の情報を与えました。

 その上で被験者に脈拍や心拍数、脳波等を計測するための装置を装着してもらい、「これらの装置で、昨夜あなたがどのくらいレム睡眠をとったかを測定します」とアナウンスをし、各々の被験者に16.2~28.7%の範囲での虚偽のデータを教えました。なお、実際には脳波しか計測しておらず、レム睡眠をどれくらいとったかは計測していませんでした。

 その後、被験者には、聴覚と処理スピードを測るテストを行いました。これらのテストは、睡眠不足が最も関連する内容なのです。すると、実験の結果、実際の睡眠時間に関係なく、平均以上(25%以上)のレム睡眠時間をとったと伝えられた被験者は総じてテストでいい結果を残し、平均以下の被験者はテストで平均点以下の結果しか残すことができなかったのです。

 この実験から、実際の睡眠時間にかかわらず、「自分はよく寝た、しっかり休んだのだ」と思い込むことによって、翌日の自分のパフォーマンスをアップすることができるというわけです。つまり、プラセボの一種ですね。

 逆に、「あ~今日も寝てないわ~」などと睡眠不足アピールをすることは、自身のパフォーマンスを低下させてしまうという悪影響が生じてしまう可能性があるということです。さらに、寝てないアピールも大概にしないと、周りの人にもうんざりされてしまい、悪影響が拡大してしまいますからご注意を(笑)。

睡眠学習に効果

 さて少し話はずれますが、睡眠時間が少ないのは、やらなければならないことが多いからで、そのやらなければならないことが、暗記系のことだというみなさんに朗報があります。睡眠といえば、昔、枕の下に参考書を入れて寝たり、怪しげな睡眠学習のテープを購入した経験がある方もいらっしゃるのでは? 寝ながら学習、すなわち、「睡眠学習」ができたらなぁ、なんていう若かりし日の夢が叶う日がやってきたかもしれません。

 スイスのチューリッヒ大学のシュライナーとラッシュの14年の実験によると、眠っているうちに外国語を聞き流すことは学習に効果的であるということが明らかになったのです。

 彼らは、ドイツ語を母語とする生徒ら68人を被験者として、夜に120個のオランダ語の単語を学んでもらう実験を行いました。68人の生徒を、睡眠学習グループ、ただ寝るグループ、コンピューターゲームをしているグループ、学習しながら起きているグループの4つに分けて、まず1ラウンド目で、オランダ語の単語を聞かせ、続いてドイツ語訳を見せるというかたちで学習させました。2ラウンド目で、オランダ語を見せ、ドイツ語でその意味を口頭で答えさせ、その後、解答のドイツ語訳を見せるというかたちで学習しました。そして3ラウンド目では2度目のようにオランダ語を提示し、ドイツ語で答えさせましたが、解答は見せませんでした。この睡眠前の段階ではグループ間に正答率の差は見られませんでした。

 2番目のただ寝るグループ以外には、それぞれの被験者が学習中に正解した単語、不正解だった単語、習っていない単語をそれぞれ30ずつ聞かせて再度学習しました。その後、睡眠をとっていたグループを起こし、全員に同じ単語テストを行ったところ、起きていたグループよりも睡眠学習をしていたグループのほうが成績が良かったのです。

 ただ、この睡眠学習は、闇雲に聞かせていれば良いというわけではなく、寝る前に一度学習したものを睡眠中に学習するということがポイントのようです。

 語学の勉強をやらなくてはと思っているものの、普段の仕事の多忙さゆえ手がつけられていない方にも朗報ですね。また、語学以外にも、何か暗記しなければいけないものがある方は、この方法を応用してみてはいかがでしょうか。

 秋の夜長、せっかくのすごしやすい時期を是非有効に使っていきましょう!
(文=堀田秀吾/明治大学法学部教授)

●著者出演情報
テレビ番組『ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系)月曜レギュラーコメンテーター

堀田秀吾/明治大学法学部教授

堀田秀吾/明治大学法学部教授

 専門は社会言語学、理論言語学、心理言語学、神経言語学、法言語学、コミュニケーション論。研究においては、特に法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学、脳科学など様々な学術分野の知見を融合したアプローチで分析を展開している。執筆活動においては、専門書に加えて、研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を多数刊行している。

Twitter:@syugo_h

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