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DNA婚活、広がる…遺伝子で相性を判定 女性は相性の良い男性を「匂い」で判断

文=ヘルスプレス編集部
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DNA婚活、広がる…遺伝子で相性を判定 女性は相性の良い男性を「匂い」で判断の画像1「Getty Images」より

 最近、若い女性が熱く注視しているのが「DNA婚活」だ。

 2018年11月13日に朝のニュース番組『おはよう日本』(NHK)が「DNA婚活」というテーマで放送した。相手のDNAと自分のDNAを調べるだけで、理想的なカップリングが実現するらしい。

 番組に情報提供した婚活サービス企業、ジーンフューチャーなどによれば、DNA婚活は男女の遺伝子検査を事前に行い、免疫をつかさどるHLA(ヒト白血球抗原)遺伝子と匂いの好感度に基づいて、相性の良さを 0~100%の数値で示す遺伝子相性診断だ。70%以上であれば、「DNAの相性が良い」と判定する(出典:徳永勝士「HLAの人類遺伝学」)。

「恋愛遺伝子」とも呼ばれるHLA遺伝子と匂いに基づいた相性の良さの根拠は、1995年にスイスのベルン大学の動物学者クラウス・ヴェーデキント博士が行った「Tシャツ実験」の研究成果だ。

 Tシャツ実験によると、ヴェーデキント博士は、男性44人が2晩着たコットンのTシャツの匂いを女性49人に嗅いでもらい、その反応を分析した。

 その結果、女性が好んだTシャツは、女性の遺伝子パターンより一番遠い遺伝子パターンを持つ男性のTシャツだった。つまり、女性はHLA遺伝子の型がもっとも異なる男性のTシャツを、無意識のうちに好む事実が判明した。

 実験期間中、男性は腋臭止め、コロン、ローション、 香辛料に富む食べ物、アルコール、性交渉を避けた。女性は嗅覚が特に鋭敏化する(通常のおよそ100倍とされる)月経周期の中間期に該当した。

 Tシャツ実験が結論づけた事実は何か。それは、女性がHLA遺伝子の違いを匂いとして感じ取り、HLA遺伝子の型が似ていない男性の匂いほど魅力を感じ、惹きつけられた点だ。

 従って、HLA遺伝子の型が似ている男女は相性が悪く、似ていない男女は相性が良いことになる。

思春期の娘が父親の体臭を極端に嫌う理由

 このような根拠から、HLA遺伝子の型が感覚的な相性に影響するため、HLA遺伝子の型が似ていない人同士が結婚すると、免疫力の強い子どもが産まれやすいとする見解もあるほどだ。

 言うまでもなく、このTシャツ実験のポイントは、匂い(=フェロモン)にある。五感のなかでもヒトの嗅覚は、嗜好性(好き嫌い)が極めて鋭く、しかもセクシュアリティや性衝動などの求愛性にも深くかかわっている。

 このような匂いの仕組みとTシャツ実験の結果に即してみると、思春期を迎えた娘が父親の体臭を「オヤジ臭」と嫌う理由が説明できる。

 つまり、性ホルモンや性的欲求が高まった思春期の娘は、父親から受け継いだHLA遺伝子の型の近似性が高い(後述)ことから、血縁的に近い父親の体臭を「クサイ」と感じ、嫌う傾向が強まるのだ。

 このような卑近な事例からも、近い遺伝子の相手を避けるというTシャツ実験の結果を経験的に実感できるかもしれない。しかし、Tシャツ実験では、男性がどの女性のタイプを好むかは調べていない。こちらも調べてほしいところだ。

DNA婚活のメリット

 さて、話をDNA婚活に戻そう。DNA婚活は、数年前からスイスやアメリカで普及し、日本では4社がサービスを提供中だ。紹介料と、数万円の遺伝子検査費を支払えば、相性の適合性の高い相手を紹介する。20代、30代の女性を中心に100人以上が登録している婚活サービス企業もあるという。

『おはよう日本』に出演した中央大学の山田昌弘教授(家族社会学)によれば、相性が合わずに別れるリスクを最小化するDNA婚活にメリットを感じるのは、恋愛を楽しむ余裕がなくなった女性が増えているからではないかと推測する。

 一方、情報通信研究機構の山元大輔上席研究員(行動遺伝学)は、DNA婚活によって男女関係が長続きするかどうかは、さまざまな要素が絡んでいるので、DNAの相性は参考情報程度にするべきではないかと釘を刺している。

 いい人と出会い、幸せになりたい。効率的に相手を見つけ、結婚したい。健康な子どもに恵まれたい――。そんな差し迫った女性たちの胸をくすぐるDNA婚活。だが、DNAの相性がすべてだろうかとの疑念も生じる。

 結婚相談所などのアンケートやノウハウに基づいたマッチングがいいのか。自分の“希望条件”だけでひたすら探す出逢いがいいのか。高確率で惹かれ合い、結婚後も良好なパートナーシップを築く可能性が高まるDNA婚活がいいのか。その結論は出しにくい。

臓器移植ではHLA遺伝子の一致が不可欠

 今回のHLA遺伝子と匂いの関連性の研究は、実に興味深い。

 HLA遺伝子は、1954年に発見された白血球の血液型で、第6染色体の短腕にあり、赤血球を除くほぼすべての細胞と体液に分布している。個人によって型がすべて異なり、免疫システムが自己と非自己を区別する自他認識のマーカーになる。

「主要組織適合抗原」とも呼ばれ、皮膚・臓器などの同種造血幹細胞移植(造血細胞移植)を行う時は、移植を受ける患者(レシピエント)と臓器提供者(ドナー)のHLA遺伝子が一致しなければ拒絶反応が起きる。つまり、レシピエントとドナーのHLAの不一致(ミスマッチ)が多いほど、生着不全や移植片対宿主病(GVHD:移植したドナーの免疫細胞が、患者の体内で有害な免疫反応を招く状態)などの有害な合併症のリスクが高まるのだ。

 従って、HLA遺伝子が一致したドナーから移植を受けるのが最適だが、HLA遺伝子のバリアを克服するための移植方法の開発が進み、ミスマッチがあるドナーからの移植成績も向上している。

 造血幹細胞移植のほかHLA遺伝子は、がんに特異的なペプチドを接種し、抗がん効果を高めるがんワクチン療法にも応用されている。ペプチドワクチンは特定のHLA遺伝子に効くことから、HLAタイピングはがんの治療に欠かせない。

 がんだけでなく、さまざまな疾患や難病とHLA遺伝子の関係性が解明されている。たとえば、糖尿病になりやすいタイプ、潰瘍性大腸炎を発症しやすいタイプ、ベーチェット病(眼病)に罹りやすいタイプなどが報告されている。HLA遺伝子と罹りやすい疾患の相関が次々と解明されつつあるのだ。

 マーカーとなるHLA遺伝子を持てば必ず発症するわけではないが、自分のHLA遺伝子を自覚すれば、常日頃から体調に気を配り、疾患を防ぎやすくなるだろう。HLA遺伝子を知れば知るほど、疾患の予防や克服の道筋が明瞭に見えてくるはずだ。

 HLA遺伝子は、婚活だけでなく疾患対策にも大きな意味を持つ。
(文=ヘルスプレス編集部)

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