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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

教師の体罰事件を生む「子どものしつけ」の欠如…親が子を叱らないツケが教師に回る

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士
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教師の体罰事件を生む「子どものしつけ」の欠如…親が子を叱らないツケが教師に回るの画像1体罰事件の動画

 先頃、教師が生徒を怒鳴りながら殴る映像がテレビのニュースで繰り返し流されていた。この種の報道に接するたびに思うことがある。それは、今どきとんでもない教師がいたものだと印象づけるような報道が目立つが、果たしてそうだろうか、ということだ。

 私の子どもの頃は学校での体罰は日常茶飯事だったが、今は教育現場での体罰は固く禁じられている。SNSですぐに情報が流れ、マスコミがそれをすぐに嗅ぎつけ執拗に追及する時代ゆえに、学校側は体罰を厳しく禁じている。それにもかかわらず、しょっちゅう体罰事件が表面化する。なぜなのだろうか。

 私は、その背景には、子どものしつけや教育における、世の中全体の厳しさの欠如があると考える。

学校の先生は滅多に怒らなくなった

教師の体罰事件を生む「子どものしつけ」の欠如…親が子を叱らないツケが教師に回るの画像2『ほめると子どもはダメになる』(榎本博明/新潮新書)

 私が生徒の頃、学校には怖い先生がいたものだ。規則違反をしたり、やるべきことを怠ったり、悪ふざけが度を越したりすると、先生から酷く叱られた。先生は怖い存在だった。

 だが、今の子どもたちは、先生に対してやさしいイメージをもっている。

 2000年前後、私が教育委員会の仕事をしていた頃、中学ではうっかり生徒を叱ると保護者が怒鳴り込んでくるというのが話題になっていた。

「先生が怒鳴ったりするから、うちの子は怖くて学校に行けないって言ってるんです。どうしてくれるんですか!」

「先生からきついことを言われて、うちの子はものすごく傷ついてます。ほめて育てる時代なのに、なんてことしてくれたんですか!」

などといったクレームがくる。そのせいで実際に不登校になるといった事例も頻出し、先生たちは生徒を厳しく指導することができなくなった。

 学校現場で生徒の教育にあたっている先生たちと話すと、そうした傾向は近年ますます強まっているようだ。先生たちは、生徒の背後には保護者がいることを常に意識するように管理職から言われ、体罰をしないのはもちろんのこと、厳しいことを言って傷つけないように細心の注意を払っているという。

 生徒の側は、どのようにみているのだろうか。

 私が、授業に出ている20歳前後の大学生や、通信課程で学ぶ20代の社会人に尋ねたところ、小学校、中学校、高校のいずれにおいても、先生が生徒を怒る姿はほとんど目にしたことはないという。クラスのワルがよほどの悪事をはたらいたときはさすがに怒鳴ることがあったが、そうした特別なケースを除くと、先生が生徒を怒鳴るようなことはほとんどなかったというのだ。

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした執筆、企業研修・教育講演等を行う。著書に『「やりたい仕事」病』『薄っぺらいのに自信満々な人』『かかわると面倒くさい人』『伸びる子どもは○○がすごい』『読書をする子は○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』『仕事で使える心理学』『心を強くするストレスマネジメント』(以上、日経文庫)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『「上から目線」の構造<完全版>』(日経ビジネス人文庫)、『「おもてなし」という残酷社会』『思考停止という病理』(平凡社新書)など多数。
MP人間科学研究所 E-mail:mphuman@ae.auone-net.jp

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