今春の超大型10連休、各地は行楽や観光の人で賑わい、テーマパーク、アミューズメントパーク、遊園地なども活況が予想される。遊園地の花形といえば、スリル満点の絶叫マシン。東京ディズニーリゾートの人気アトラクションである、「センター・オブ・ジ・アース」や「ビッグサンダー・マウンテン」「スプラッシュ・マウンテン」には、HP上にこんな規定がある。
「妊娠中の方、高齢の方のほか、高血圧の方、心臓、脊椎、首に疾患のある方、乗り物に酔いやすい方、その他アトラクションのご利用により悪化するおそれのある症状がある方のご利用をご遠慮いただいております」
スリリングなアトラクションが掲げるこのような警告文は、至極まっとうに思える。特に、心臓の病気がある人には、死のリスクも想起させる。身近な人がチャレンジしようものなら、周囲が止めることだろう。
スリリングな行為は、死に至る原因となり得るか
だが、果たして心臓病患者が、ジェットコースターに乗車する、レーシングカーを運転する、バンジージャンプにチャレンジする、といったスリリングな行為をした場合に、それが原因で「死に至る」という最悪の事態は起き得るのだろうか。
実は、これまでに科学的な手法によって、この問いに対する実験や検証をした研究は、ほとんどないという。米テンプル大学の心理学者・フランク・ファーレイ氏は、専門家の立場から、こう述べている。
「心血管への影響を、さまざまな角度から詳細に調べた大規模な研究はいくつもあるが、ヒトがスリルを求める性格や実際にスリルを味わう行動が、健康に対してどのような影響を与えるかを確認した従来研究は、私の知る限りない」
それが最近、定説に一石を投じる新知見が発表された。過去例が見当たらない領域に挑み、重い心臓病を抱えながらもスリルを追い求める人々を対象として、健康面の真相に迫ったのは、米イェール大学の包括的心不全プログラム・ディレクターであるダン・ジャコビー氏らが主導する研究陣だ。彼らの興味深い成果報告は、2018年11月の米シカゴでの米国心臓協会・年次集会で発表された。
肥大型心筋症患者でスリリング愛好者に関する調査
研究陣が解析対象として注目したのは、「肥大型心筋症」がありながらも好奇心旺盛なスリリング愛好者たちを調査した稀少データだった。肥大型心筋症は、心臓の壁が肥厚して心停止の主な原因ともなる。
オンライン調査対象である成人男女571名は、いずれも不規則な心拍や不整脈のリスクが高いスリル愛好者。そのうちの約4割が、除細動器を体内に植え込んでいた。
彼らが果敢に挑んだスリリング体験の種類も、実に多彩だ。バンジージャンプや大型ゴムボートで激流下りをするラフティング、パラグライディング、高所から懸垂降下するラペリング、おなじみのスカイダイビングなど、計8000件を超える内容が回答されていた。
しかしながら、調査対象者のおよそ3分の1において「めまい」「吐き気」「動悸」などの軽度な症状が報告されてはいたものの、諸々のスリリングな行為から1時間以内に「心停止」や「失神」などの重度な反応例は、わずか9件のみだった。
ジャコビー氏によれば、過去10年にわたって調べたジェットコースターの乗客死亡例に関する従来研究では「心臓問題」の死因例は極少、その大半が「外傷」によるものだった。
スリルを求める人々の健康問題とは?
ファーレイ氏も、数十年にわたって「スリルを求めて行動する人々」を対象に研究を重ねてきた専門家のひとり。実際にネパールでエベレスト登山者を追跡調査したり、ロシアや中国現地においては、熱気球に乗っての観察も行ってきた。それらの検証過程でも「健康上の問題」が浮上した例はほとんどなかったとファーレイ氏は語る。
「今回の研究では、重度の心臓病を有する患者においてさえ、スリルを求める行動が健康上のリスクに関係するとの優位を示すエビデンスは、ほとんど読み取れなかった。1回当たりのスリリングな行為による影響力は、極めて低いことが示されたのではないか」
ただし、ジャコビー氏はこう補足する。
「今回の研究結果をもって、人々がこういったスリリングな行為を気軽に捉えるようになるのは、我々の本意ではない」
なかでも、心臓病患者の場合、医師への事前相談を行うべきだと強調する。「自分にとって適切な行動とは何か。それを医師と話し合うきっかけとして生かしてもらえると幸甚だ」と、研究主導者の立場から助言した。
間近に迫った10連休。今年は誰と、どんなワクワク体験に臨みますか。
(文=ヘルスプレス編集部)