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直木賞作家・河﨑秋子は極限下での人間の本性を暴く

『金カム』ファン必読! 明治中期・北海道が舞台の監獄長編小説『愚か者の石』

文|末崎裕之  写真|二瓶彩
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著者が本当に体験したかのような塀の中の物語

『愚か者の石』(小学館)著者・河﨑秋子氏

 河﨑氏が徹底的なリサーチを積み重ねた結果、「史実に則って書いたらそれだけで小説になってしまうような時代背景」を舞台に、まるで著者が本当に体験したかのような塀の中の物語が語られていく。

 「状況に応じた人間の喜怒哀楽って、この150年ぐらいでそんなに進化してないと思うんですよ。例えば、あれだけの長い労働時間なのに食事がこれだけしか出ていない、なおかつ風呂も5日に1回で臭い、みたいなことを資料を通して知るわけですが、そういう状況下で人間がどういうふうに荒んでいくのかということは何となく想像がつくでしょう。実際に書いていることとまったく同じだったかどうかはもちろん保証はできないんですけれども、少なくとも読者の方に納得してもらえるような書き方になっていると思います」

 物語は主人公の巽が21歳の若さで国事犯として徒刑13年の判決を受け、樺戸集治監に収監されるところから始まる。次々と過酷な運命が降りかかるなか、同房の山本大二郎とは相棒のようになっていくが、その大二郎の存在が巽の心に光と影を生む。

 「限定された条件下の中で人間がどういう行動を取るかっていうのは、他の作品でも描いていますが、私が好きなんでしょうね。追い詰められた人間から出てくる本性が好きなんだと思います。巽は思いもしなかった地獄のような環境に置かれるわけですけれど、シャバにいたならば全然気にしないような光であっても、薄暗い場所ではとても綺麗に見える。それは別に自分の刑期を短くしてくれるわけじゃないし、腹も満たしてくれないけれども、その光を見続けているだけで今日は立っていられる。そんなものがあれば、という気持ちで書いていました。それは大二郎のホラ話だったり、持っている石であったり、存在そのものであったり……」

 物語のラスト、巽は「これでいい」と言って、ある決断をする。それはエンタメ小説によくある“衝撃のどんでん返し”のような類のものではなく、まさに巽という人間の本性、魂のようなものにたどり着いた、というように感じられた。河﨑氏が“物語を書くこと”についてこのように話していたことを思い返す。

 「私は書けるものと書きたいものと、担当の方との雑談で生じたものとかをうまく合わせて、なおかつ読者の方を引きずり込んでいけるようなものを書ければというふうに思っています。自分の中で大切にしていることは、自分の中の“ルール”を破らないこと。展開のためだけに登場人物に不自然な行動をさせたり、あまりにも都合の良すぎる展開を選ばない。それは私の中で勝手に、読者の方に約束していることですね」

河﨑秋子(かわさき・あきこ)
1979年北海道別海町生まれ。2012年「東陬遺事」で第46回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)、14年『颶風の王』で三浦綾子文学賞、15年同作でJRA賞馬事文化賞、19年『肉弾』で第21回大藪春彦賞、20年『土に贖う』で第39回新田次郎文学賞を受賞。24年『ともぐい』で、第170回直木三十五賞を受賞。

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