そもそも体には免疫システムが備わっており、細菌が体内に侵入しようとするのを阻止することができる。例えば、ケガをした場合に血が流れるのは、その働きの一つだ。血液中の白血球は、細菌の侵入を防ぐ働きを持っており、さらに血液中の血小板が止血するというシステムが整備されているのだ。
消毒液を塗るのは、これらの免疫システムを弱らせることになる。薬を塗ることで、細菌とともに白血球も破壊するため、むしろ傷の治りが遅くなるのだ。
例えば、うがい薬などにも用いられている消毒薬ポビドンヨードは、一般的に消毒薬として頻繁に使用されてきたが、その殺菌作用は細菌にだけ有効なのではなく、生体細胞にまで有害に作用し、傷を治癒させるために必要な細胞も殺してしまう。細菌になんらかの有機物が結合していると、殺菌力は低下する。化膿している傷は有機物だらけなので、すでに膿が出ている場合には殺菌力はかなり低下し、細胞毒性だけが残存することになる。その結果、消毒するつもりで消毒薬を塗っても、殺菌できないばかりか傷を悪化させる状態をつくることになる。これは他の消毒薬についても同様で、消毒薬を傷口につけるメリットは極めて少ないといえる。
特に危険なパウダー状消毒薬
消毒薬には大きく分けて、液状、泡状、パウダー状の3タイプがある。どのタイプも細胞に対する毒性があるので、使用しないほうがよいのだが、特にパウダー状消毒薬には危険が多い。
手軽でしみない殺菌消毒薬として、パウダースプレー式の消毒薬は発売以来高い人気を誇っている。しかし、厚生労働省には、パウダースプレー式消毒薬に関し、「使用したら化膿した」「凍傷になった」などの事故情報が毎年数多く寄せられている。
パウダースプレー式消毒薬は、スプレーするとパウダー状の消毒薬が傷口を覆い乾燥させる。傷口の乾燥を早めるという点で、液状・泡状の殺菌消毒薬とは異なるタイプの医薬品といえる。切り傷、擦り傷、刺し傷、かき傷、靴ずれなどを対象とし、効能・効果は、創傷面の殺菌・消毒とされている。