メーカーは発売当初から、添付文書に「使用に先立って、傷口の泥などの汚れを水できれいに洗い落とすこと」「傷口から10cmくらい離して吹きつけること」「同じ箇所に3秒以上スプレーしないこと」といった注意表示を記しているが、事故は後を絶たない。なお、厚生労働省も表示等について、数回にわたって改善の指導をしている。
パウダースプレー式消毒薬を使用する時に傷口の洗浄が不十分だと、細菌が増えて化膿する恐れがある。しかし、洗浄で細菌が完全に除去されたか否かは、見た目にはわかりにくい。もし洗浄が不充分な場合にパウダー状の消毒薬を吹きつければ、残った細菌を内部に封じ込めることになり、化膿を引き起こす。
また、用法として「1日1回~数回使用」となっているが、2度目以降につけるときは先につけた薬剤を落とさなければならない。しかし、一定時間(6~8時間)を経過すると薬剤が固化し、洗っても先の薬剤が取れにくく、重ね塗りすることになる。その結果、後からつけた消毒成分が奥まで行きわたらず、細菌を増殖させることになる。そして傷が悪化していたとしても、パウダーで覆われているため症状がわからず、処置が遅れる傾向にある。
さらに、消毒薬のみならずスプレーにはLPガスが使われているものが多いが、LPガスは冷却力が強いため、近くからスプレーしたり同じ箇所に多量に噴霧すると、凍傷になる危険がある。実際に、厚労省や国民生活センターには、凍傷になったとの報告が毎年数件寄せられている。
絆創膏も、使用は控えたほうがいい。絆創膏を貼ってしまうと、傷口が乾燥しやすい。乾燥すると、白血球が働けなくなってしまうため、やはり傷の治りが遅れる原因となるのだ。最近は、傷口を乾燥させずに自己治癒力を高める絆創膏が売られているが、極めて高額だ。1枚当たり100円~数百円するため、気軽に使えるものではない。
昨今、サッカー選手がスライディングをして擦り傷を負った場合には、砂などの汚れを流水で洗い、ワセリンを塗ってラップを巻くのが主流となっている。つまり、乾燥を防ぎ、自己治癒力に任せるのだ。実際に両足に同じような擦り傷を意図的につくり、片方は乾燥させ、片方はラップを巻いて治り方を比べた結果、ラップを巻いたほうが治りは早く、傷痕もきれいに消えた。
高い絆創膏を買わなくとも、流水できれいに洗ってラップを巻くという手法、傷を負った時にはぜひお試しあれ。
(文=ピカケ/薬剤師)