また、消費者契約法と並行して特定商取引法の改正作業も進んでおり、こちらは「誇大広告」につられて買った商品やサービスの契約取り消しの規定を加えようとしている。「液晶の違いによる商品写真の色の見え方の違いまで『誇大広告』にされたらたまらない」と、ネット通販企業は戦々恐々だ。
7月9日、楽天、サイバーエージェント、ミクシィなど主にネットコンテンツ企業が加盟する経済団体「新経済連盟」が、「経済に与える影響を考慮し、関係事業者の意見を十分に聞くべきだ」と、慎重な議論を求める意見書を山口俊一消費者大臣に提出した。ネット広告やネット通販の企業は大きな危機感を持っている。
ネットベンチャーが起業、成長しにくくなる恐れ
消費者契約法の改正は、追跡型広告を迷惑だと思う人には朗報かもしれないが、ポータルサイトや通販サイトに限らず、コンテンツ系など広告に依存したビジネスモデルを展開するネット企業にとっては、それで広告料収入が減少すれば経営上の打撃になる。現状ではネット広告のほぼ主流の座を追跡型広告が占めているからだ。
例えば動画配信を無料で提供しているサイトなどは、広告料収入が減少すれば有料化を検討するかもしれないが、それには課金や個人情報を管理するシステムの導入など追加でコストがかかる。しかも、ネットの利用者の間には「ネットはタダ」という観念が定着してしまっているので、有料化は自分で自分の首を絞めることになりかねない。
ネットベンチャーを立ち上げる起業家にとって、起業して間もないスタートアップの段階は経営基盤が弱く収入が安定しないので、ネット広告は貴重な収入源だ。ベンチャーが独自技術で開発したソフトの試用版を無料で配布し、ユーザーがそれを自社サイトでダウンロードする最中に表示される広告で収入を得るようなビジネスモデルは、昔から広く行われてきた。企業側は後でバージョンアップをする時に、継続利用希望者に課金し、自前の収入源を構築していくのである。
このようにネット広告は、まだ自分の足では歩けないベンチャーに、事業を継続できるだけの栄養を補給してきた。その補給パイプが細ってしまったら、ベンチャーが栄養失調で育たなくなる恐れがある。それでは、経済の活性化のために中小・ベンチャー企業の育成を大きな柱に掲げている安倍内閣の成長戦略に逆行してしまう。