11月12日に発売されたXbox One(マイクロソフト)・プレイステーション4(PS4、ソニー・インタラクティブエンタテインメント)用ゲームソフト『アサシンクリード ヴァルハラ』(Ubisoft Entertainment、以下UBI)の表現規制が物議を醸している。
同作品はUBIの看板タイトルとして世界累計1億4000万本(2019年時点)のセールスを誇る『アサシンクリードシリーズ』の最新作だ。事の発端は、メーカーから何のアナウンスもなく日本、中国、台湾などで発売された日本・アジア版の「戦闘シーンの流血表現」が規制されたことにあった。同ソフトのCERO(特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構)レーティングは「Z」で18歳以上対象。映画など他の媒体では自由にできている表現がなぜ規制されたのか、疑問の声が上がっている。
荒々しいヴァイキングの戦闘がマネキンとの戦いに
同シリーズは、現代に生きるアサシン教団の末裔の主人公が、遺伝子記憶を追体験する装置を使い、十字軍の侵攻を受けているエルサレムやルネサンス期のイタリア、アメリカ独立戦争などを体験する。プレイヤーは精緻に再現された中世の街や草原などのフィールドを縦横無尽に移動でき、ダイナミックな戦闘シーンが売りのひとつだ。
今回は、新作『ヴァルハラ』日本版の公式ホームページには、次のような説明がなされている。
「ヴァイキングとなり伝説を残せ
時は9世紀。恐れ知らずの戦士として育てられたヴァイキング『エイヴォル』となり、戦士団を率いて、氷に閉ざされたノルウェーから緑豊かな農地が広がるイングランドを目指せ。ヴァルハラに迎え入れられるため、定住地を築き、敵地を征服せよ。
ヴァイキング時代のイングランドは、諸侯や王国どうしの争いによって引き裂かれていた。混沌の果てに待つのは、豊かな手つかずの大地。新たな征服者にあなたはなれるか?」
プレイヤーはヴァイキングの戦士のひとりとなり、斧や弓などでエネミーを倒すことになるのだが、その際、首を切断するなどの描写がある。ところが、アメリカなどで発売された北米版では血しぶきが舞い、戦争の悲惨さ、凄惨さをリアルに表現しているのに対し、日本版ではまったく血が出ず「まるでマネキン人形を切りつけている」ようにしか見えない描写に規制されていたのだ。
事前に日本版と北米版の表現に関する告知なし
日本版を販売するUBIジャパンから発売前にこの規制措置に関する告知がなかったことも、購入者の不信を煽った。18日時点でのインターネット通販大手Amazon.com(以下、アマゾン)での商品評価は星2.1で、星1つの評価が全体の53%を占め、以下のようなレビューが次々に投稿されている。
「UBIの流血規制だから買わない方がいい。ヴァイキングの物語なのに斧で斬っても流血しない ロボット斬ってるみたいで冷める
その他バグもありパッチ来ないなら返品する予定 レギオンも微妙だったしUBIは終わりかもな ファークライも買わない(笑)
公式で流血規制解除はないっぽいから売った今なら5000円で買い取られる(笑)
アジア全体で流血規制クレームが発生していて漢字入力をできなくしたらしい
アジア人どんだけ嫌いやねん(笑)」(原文ママ、以下同))
「これ以上被害者を出したくないので書きます。バグか規制かと騒がれている流血表現についてですが、規制でほぼ間違いないようです。
UBI公式の回答でも流血表現は規制だと返答がきております。この件はなにより事前の規制発表に含まれておらず、戦闘が1つの大きな要であるこの作品において致命的な欠陥です。最近はラスアス2などひどい規制が横暴しており、その規制内容すら発表しないケースが多すぎます。今回の件は今まで一番不快な対応であり、消費者を金づるにしか思っていない悪い癖がでましたね。皆さんはおとなしく北米版を買いましょう。こんな企業に1銭も払う価値はないです」
「ホラー映画にクリーチャーが出ないようなもの」
グラフィックやストーリーに関しての批判は少なく、流血表現が規制された点での言及が目立つ。今回の規制の問題点はなんなのか。ゲーム情報サイト関係者は次のように話す。
「ゲームをしない人からすれば、『ゲームファンはどれだけ血に飢えているんだよ』と呆れられるかもしれませんが、事は重大です。
まず1点目として、ゲームソフトは地上波のテレビ番組やアニメ絵のポスターなどと違い、『こういう作品を見たい、プレイしたいから選択的に購入している』ということです。興味のない人、見たくない人には、そもそも目に入らないのです。しかも、このソフトは18歳以上対象です。『青少年に悪影響を与える』というような批判も該当しません。例えば同じレーティングの映画作品で血しぶきが飛んでも、問題になりませんよね。ホラー映画で、不死者やエイリアンが流血も溶解もせず、普通の人間と同じ姿かたちで現れたら『返金しろ』と騒動になるでしょう。
2点目として、UBIは発売前に規制のない北米版のゲームプレイ動画を積極的にPRしていたことです。そのため、日本のユーザーが購入したら『宣伝していたものと全然違うじゃないか』となるのは当たり前ともいえます。今回の規制が、UBI主導で忖度したのか、CEROに指摘されたて実施したのか、現時点ではわかりません。一説には、日本より規制の厳しい中国向けに調整したとの話も聞きますが、それもわかりません。
これまでアサシンクリードシリーズは中世の建築物を細部まで再現したり、武器や小道具にも正確な歴史考証で描いていたり、とにかくクリエイターによる細やかな表現を尊重していました。日本版のみとはいえ、クリエイターが本来描こうとしていた表現が侵害されていることに疑問を感じます」
映画やアニメの表現あり方はこれまでもたびたび論議を呼んできた。こうした事例が相次ぎ、ゲーム業界でもクリエイターの委縮を招くことにならなければいいのだが。
(文=編集部)