「果たしてジョブズなら世に送り出しただろうか」
新しいiPhoneが発表されるたびに常に巻き起こる議論である。稀代の天才、故スティーブ・ジョブズが世界中のデジタルライフを一変させて以来、我々が米アップルに求める商品には、常に高いハードルがある。
特に今回、「Apple Watch Series 3(アップルウォッチ3)」がセルラー(通話・通信機能)を標準装備したことで、単体で通話機能を備えたモバイル端末としては、「iPhone 8」と「iPhone X」と合わせて短い期間に過去最高の3種類のアップル新商品が出揃う事態となった。少数の全製品購入者を除けば、三つ巴の選択肢に悩むところだろう。
本記事は、今なお8とX、そしてアップルウォッチ3を天秤にかけている方に贈る、なかでも特に“旧態な”選択肢とされている8を選んだ理由と、複数の購入者から得たレビューである。
(1)ジョブズが愛したiPhoneデザイン
今回、特に8とXを比較した際に大きな議論になるのは、物理的なホームボタンの有無だ。もはやセンサー的な観点ではホームボタンをスクリーンから独立させることに特に意味が無くなってきたとはいえ、10年以上にわたりファーストアクションの要として居座った、慣れ親しんだボタンが物理的に消えることは寂しい。そして、ユーザーにとっても大きな変化である。
たとえば、Xのブラックアウトした画面を遠方から触るシーンを想像してほしい。そこには視覚的にはボタンの無い黒い盤面があるだけだ。そしてユーザーのアクションとしては、慣れ親しんだホームボタンを仮想で想像して、あるべき位置を目指す、といった動きになる。それは、無いものを慣れ親しんだ位置、つまり、iPhoneの歴代UIデザインに求める行為でもある。
iPhoneの端末デザインは、2007年の誕生以来ずっと、四角いスクリーン(Square)とタッチボタンの円(Circle)の組み合わせで一貫していた。実はそれは、2001年の初代iPodから続くデザインの潮流でもある。
ちなみに円のデザイン採用に関しては、『ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ』(ケイレブ・メルビー、ジェス3/集英社インターナショナル)によれば、ジョブズのZEN(禅)と東洋思想の「間」についての悟りから得たアイデアだったりする。その円デザインは、今回、宇宙船のようなデザインとして話題になったアップル新社屋 にも生かされた。