その、ほかでもないiPhoneらしさ、iPodらしさ、ひいてはアップルとジョブズらしさを象徴するスクリーンと円の組み合わせが、物理的には放棄される(正確には、プロダクトラインとして放棄した製品が新たに分岐した)のが、今回の革新なのである。
8は、そのターニングポイントで燦然と輝く、ジョブズが愛したかつてのiPhoneデザイン、アップルの黄金律というべきデザインの集大成なのだ。その安定感のあるデザインは、ほかと差別化されていて飽きないし、いつでも、安心して、円(ホームボタン)を目指してファーストアクションがとれる。変わらないものに、そしてジョブズが愛したデザインに価値を求める人にとっては、Xのデザインに移行する必要はない。
(2)記憶を切り取る装置としてのAR
Xではない、昔のiPhoneデザインのままでいいならば、「iPhone 7」以前のモデルでOKとする人も少なからずいる。ではなぜ8以上でなければいけないのか――。
まずは体験価値から考えてみる。
もちろん、いわゆるカメラや処理速度などのスペック的なバージョンアップもある。だが、それ以上に大きな体験価値的な飛躍は、8でのAR(現実拡張)機能の向上だ。ARがレベルアップすると何が良いのか。それは、空間の記憶を切り取る機能が飛躍するということである。
具体的に言うと、たとえば領収書を撮影する必要があった時に、空間把握の向上により、スキャンするレベルが旧来のモデルより高まる。カメラの向きや、領収書の置き方を工夫しなくても、そのまま領収書が置かれている空間的な位置や角度をカメラが捉え、記憶し、歪んだ形を自動補正して、かつてないクオリティで簡単にスキャンできるようになる。
さらに、例えばIKEAのARアプリのような、買う前にカタログから自分の部屋に家具を AR配置するようなアプリを利用することで、8なら古いモデルより高いクオリティで空間認識して、何度も店を往復するコストや、商品を返品するリスクを減らすことができるかもしれない。
現実空間を、より高いレベルで記憶として切り取る行為は、そのようにかつてない、便利で快適、そしてお得な顧客体験価値を生む。いまだ開発中のARアプリ群が、驚くような楽しい未来を、8ユーザーに魅せてくれることだろう。その体験価値を楽しむために、旧来の端末ではなく8以上である必要があるのだ。