例えば、先ほどの靴底を3Dプリンタでつくったとすると、それだけで5000円あるいは、材質によってはもっと高くなります。つまり、売価2万2000円の靴が4万1000円となってしまいます。同様にインソール、アッパーも3Dプリンタでつくったとすると(使えるかどうかは別として)、売価は8万円近くになってしまいます。
3Dプリンタではない従来の機械でつくればいいという考え方もありますが、従来の機械はカスタム1個2個を製作するのに適していないのです。大量生産するからこそコストが下がるのです。先ほどのアッパーの材料だと、何kmも調達するから材料コストが下がるのであって、好みに合わせて、色、材料も選べるようにすると、何倍、ときには何十倍のコストアップになります。そして、それを加工するための作業も、1個2個の作業だと、そこでの人件費が丸々その製造原価に乗ってしまいます。
企業の戦略を誤らせる要因に
4.0でいわれる「世界がまるでひとつの工場のようにつながり、カスタム化された製品があちこちでつくられる」という世界観では、この物流コストと製造コストの増加分はどう解決するのでしょうか。全世界で何十年も培われてきた大量生産の原則を、3Dプリンタだけで解決すると考えているのでしょうか。全世界の工場に1台数百万円もする産業用ロボットを導入するというのでしょうか。そのコストは誰が負担するのでしょうか。物流が必要なモノはワープさせるのでしょうか。そして、最後はお決まりの「困ったらすべてAI(人工知能)に任せる」のでしょうか。
4.0の世界観は素晴らしいものがあります。しかしながら、これまで見てきましたように各論を見ていくと、あちこちで「空想」が見られます。この素晴らしい世界観に酔った人たちが、各論も見ずに「空想」で盛り上がる。モノをワープさせ、製造はすべてAIの管理の下に3Dプリンタとロボットにさせる。本当にこれができるなら「革命」といえるでしょう。
ネットワーク技術の進化で、データ等の受け渡しは瞬時にできるようになりました。これにより、モノづくりがグローバル化することも間違いありません。AIが活用され、今よりもモノづくりが最適化されることも時間の問題でしょう。しかしながら、そういった現実的な話と、4.0のいう空想の話が混在していることが企業の戦略を誤らせています。実際に欧米の巨大企業では、その戦略の誤りにより大きな損害を出す企業も出始めています。
次回は、4.0における企業体について見ていきます。世界がひとつの工場のようになると、一つひとつの企業であり続けることが難しくなります。国境、中小、大企業の枠を越えた企業体。それはどういったものなのでしょうか。次回、見ていきたいと思います。
(文=高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士)