●理系離れが進み、自社教育や中途採用で対応
若者の理系離れが進み、理系の学生が少なくなっている上に、IT業界を志望する人も少ないとなれば、大学で技術開発を学んだ学生の採用を求めるのは極めて困難だ。
実際、理系だが開発知識を持たない学生や文系の学生を採用し、一から自社で教育する企業も少なくない。
しかし、そうした教育機会を設けるためには、ある程度体力がなければならず、大企業か少人数で細かく面倒が見られる環境がある企業となるだろう。自社での育成をあきらめ、即戦力の中途採用に頼った企業では、実力はあるがコストもかかる中高年ばかりのいびつな集団になるという問題も起きている。
IT業界の人材不足は、2000年代半ばから世界的にも問題視されていた。その中でも特に日本企業に顕著に見られる現象だったようだ。その後、課題を解決できないまま時間だけが過ぎ、深刻さが増している状況だ。
●必要なスキルを持った人材の不足
また、人が足りないという言葉は「必要なスキルを持った人材が足りない」という意味で使われていることもある。
例えば、金融機関のシステム改編時には、金融機関のシステムに精通した人材が求められる。システムが巨大なだけに、末端の部品的なシステムをつくるのとは異なる特別な知識が必要となるからだ。
また、スマホ向けのアプリを開発する場合、複数のプログラミング言語を使いこなす人材や、新しいフレームワークに対応できる人材が求められる。ほかにも、ユーザーの要望を受けて迅速に修正したり、飽きられないように頻繁にアップデートしたりと、リリースした後にも対応が必要とされる。
来年から導入される予定の国民総背番号制度「マイナンバー」に合わせた各自治体のシステム更新は、特に喫緊の問題とされているが、このように一定の業界内で広くシステム改編が必要とされたり、同じ目的の開発案件が山積みになったりすることも多い。消費税引き上げや東京オリンピックも引き金の一つとなるだろう。少ないエンジニアを方々で取り合うのだから、人材不足はさらに拍車がかかる。
●国策としてのIT教育と海外の活用
人材不足の対策として、企業ごとに教育を行う、必要な知識・技術を持った人材を外部から引き抜くなど、対策は企業ごと、業界ごとに行われている。しかし、そうした対策だけでは根本的な解決にはならない。
解決策としては、国がIT教育に力を入れて国内人材を育て上げることが考えられるが、これは非常に長期的な取り組みだ。中国やインドなどではIT人材を育てることに注力しており、大きな成果を上げている。しかし日本の場合、若者の人数自体が足りないので、教育だけでは乗り切れない。今後はIT業界だけでなく、各業界が少ない労働力を奪い合うことになるだろう。
では、どうすればよいのか?
インドは欧米IT企業のオフショア開発先としても長い歴史があり、1つの大きな産業にもなっている。欧米がインドにオフショア開発を委託しているのと同様に、日本企業も海外に開発を委託している。しかし、そのオフショア先が圧倒的に中国に偏っていることが問題だ。近年の両国の関係悪化や過激な反日デモなどを考えると、とても中国は今後積極的にオフショア先として使いたい国ではない。
最近ではベトナム、タイ、インド、フィリピンなどアジア各国に進出する日本企業や、現地企業に開発を委託する企業も出てきているが、各国情勢を鑑みると、どの国でも絶対安全とはいえないのが難しいところだ。
海外人材をうまく活用しつつ、国内人材を育成する。そして、属人的であったり、非効率的であったりする部分を是正し、労働環境を整え、効率的かつ働きやすい業界とすることが必要だろう。
(文=エースラッシュ)