従業員の福利厚生の一環?
好待遇に加え、ストックオプションなどで一夜にして富裕層の仲間入りをした従業員たち。若い彼らがやはり都会の華やかな生活で、その身分を享受したいと考えるのはごく自然。その欲求を満たすためにも、ある程度以上の規模の拠点をニューヨークに置かねばならなかったというのが、その背景。
そう、これは「従業員の福利厚生の一環」なのである。
ちょっとした用を足すにも車で出かける必要がある西海岸に比べ、徒歩圏内に無数の店舗があるニューヨークの生活が、特に若い女性にとっては素晴らしい環境であるのは、あらためて指摘するまでもないだろう。あるブティックの販売員は、
「IT関連は女性社員も多いし、男性の場合でも、奥さんや恋人たちが喜んでいるんじゃないかしら。Tシャツだけ着ていれば良い西海岸は、女性にとってはあんまり楽しい場所じゃないわ。特にお金がある若い女性なら、なおさらね」
と語る。
しかし、都市部に大規模なオフィスを構えるというのは、コスト面で不利。それも、世界一家賃が高い都市の代表であるニューヨークともなれば、莫大な経費増が避けられない。世界的に景気は低迷を続け、新進の成功ITベンチャーといえども、無駄な出費が続けば経営が成り立つはずもない。そもそも2000年頃のシリコンバレー/ドットコムバブルで消え去った多くのITベンチャーは、その野放図な浪費が仇となったケースも少なくはない。今ではそのようなケースは少ないものの、当のフェイスブック自身も、公開後の株価は低迷。フェイスブックといえども、新たな大規模オフィスをニューヨークのような物価の高いところに開設する経費は、決して無視できるものではないはずだ。
また、大都市であれば、より多くの人々が狭い中に密集しているため、企業同士の人材引き抜きや移籍もより容易だ。さまざまな点で、働く側にとってはメリットが大きいのである。
企業にとってはデメリットばかり
一方、企業側からしてみれば、「企業としてのメリット」が大きいからこそ、シリコンバレーに拠点を構えていたのだが、そこで働く人々が「成功企業の裕福な従業員」となった今では、そのメリットは、従業員たちにとっては、デメリットとして映ることとなっている。元来は都会のデメリットを避ける意味で、西海岸で起業したITベンチャーたち。ニューヨ-クオフィスは企業側にとってはデメリットも大きいが、従業員たちの機嫌も取らないと、すぐに彼らは離れていってしまう。なかなか痛しかゆしの状況だ。