さらに、非常に重要なのが「人」の問題である。前経営者やその家族、古参従業員との人間関係をうまく築けなければ、事業をスムーズに継承できなくなる恐れがある。前経営者の事業や実績、経営方針はできる限り尊重し、「もう古い」などと言ってはいけない。
「どこの馬の骨かわからない奴に、会社を乗っ取られた」と反発した幹部が従業員を引き連れて独立してしまったら、重要な無形資産が流出することになり、後継創業のリスクが増大してしまう。
これに関しては、いくら事前に調べても、“お見合い”を重ねても、わからない部分もある。後から時限爆弾のように隠れていた本音が飛び出したりすることもあるので、それなりに覚悟が必要かもしれない。実の父と娘が事業承継をめぐってもめ、株主総会にまで持ち込まれた大塚家具のケースは記憶に新しい。
ベンチャー支援並みに力を入れる自治体も
あまり表には出ていないが、今多くの地方自治体が後継創業を積極的にバックアップしており、中にはベンチャー企業支援並みに力を入れているところもある。それは、中小企業の後継者難が全国的に深刻な問題になっているからだ。
静岡県では商工会議所に「静岡県事業引継ぎ支援センター」という中小企業の事業継承問題の相談窓口を設置しており、14年4月から「静岡県後継者バンク」を無料で運営している。
意欲のある起業家と後継者不在の事業主をマッチングさせるという目的で、まさに後継創業のための“お見合いサービス”だ。話がまとまれば、県内の市町村や商工会議所、商工会、起業家育成協会、創業支援センター、移住相談センター、日本政策金融公庫などの関係団体が連携してバックアップするという、起業支援並みの体制を整えている。
静岡県の後継者バンクは全国初の試みだったが、昨年6月に発表された安倍晋三内閣の成長戦略「日本再興戦略 改訂2014」には「創業希望者をプールした『後継者人材バンク』を開設」という項目が盛り込まれ、国も後継創業を後押しする姿勢を明確にした。
その背景には、中小企業が事業をまるごと他企業に譲渡して一部門になるより、後継者を見つけて企業の独立性を維持したほうが雇用を守りやすいという考え方がある。
現在、事業引継ぎ支援センターは16の自治体にあり、中小企業庁は15年度中に全都道府県への設置を目指している。政府が成長戦略に盛り込んだ後継者バンクも、岡山県、長野県、秋田県、栃木県などで設立された。なお、東京都には事業引継ぎ支援センターがあるだけで、後継者バンクは設立の予定もないという。
マッチングの成功事例が少ない理由
政府も期待する後継者バンクは、最初の設立から1年あまり経過したが、相談事例はそれなりにあるものの、マッチングの成功実績はまだ皆無のようだ。