AIとプロの対戦では米グーグル傘下の会社が開発した「アルファ碁」が2016年に韓国のトッププロであるイ・セドル九段に圧勝して話題になった。17年には世界トップ級の中国選手を破っている。現在では「もう人間はAIには勝てない」というのが定説になっており、日本でも多くのプロ棋士が研究にAIを活用している。仲邑初段も、普段の勉強ではAIを使っているという。
「性格が悪いと言ってもいいほど気が強い」(幸さん談)菫初段とはいえ、今回の敗戦で囲碁を嫌いになってしまうことはなかろうが、なんといっても「人間相手」の対局に価値がある。
2日前に史上最年少勝利
仲邑菫初段はこの2日前の7月8日、大阪市の日本棋院関西総本部で打たれた第23期ドコモ杯女流棋聖戦予選Bで、田中智恵子四段(67)に逆転勝ちし、史上最年少の10歳4カ月でプロ入り後初めて公式戦の勝利を挙げたのだ。これまでの記録は藤沢里菜女流本因坊(20)の11歳8カ月だから大幅に最年少記録を更新した。優勢に進めながら中盤、一瞬のミスに付け込まれて逆転負けしたベテランの田中四段が「大人と打っているような不思議な感じだった」と舌を巻く内容だった。
仲邑初段は4月22日の第29期竜星戦予選で史上最年少の10歳1カ月で公式戦デビューしたが、この時はプロ同期の大森らん初段(16)に敗れた。今回の勝利により8月5日に、史上最年少での女流棋聖戦の本戦出場をかけ金賢貞(キム・ヒョンジョン)四段(40)と対戦する。
指導する父親はプロ九段の強豪、仲邑信也さん(46)。毎日、起きると囲碁の勉強をしてから小学校に通う仲邑について、井山裕太現4冠(30)を育てた石井邦生九段(77)は「井山の10歳の時よりも、菫ちゃんのほうが強い。才能がすごい。男性とのタイトル戦にも出てくると期待していますよ」と絶賛している。囲碁はプロへの登竜門が将棋ほどは狭くないだけに、いきなり将棋の藤井聡太七段(16)のような快刀乱麻ぶりを期待するのは酷すぎるといえる。将来が本当に楽しみだ。
(写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト)