どうせ公式発表されるものを“スクープ”することに血道を上げる
さて、上述のこうした一連のスクープ記事に対して、「古いスクープの典型」と新聞業界で指摘されているのが、朝日新聞が申請した「日産自動車カルロス・ゴーン会長逮捕をめぐる一連のスクープ」(2018年11月)。東京地検特捜部が日産のゴーン前会長を金融商品取引法違反の容疑で逮捕することを、当局の発表前にスクープしたものだ。前出の社会部中堅記者は、以下のように警鐘を鳴らす。
「朝日は紙の新聞よりも前に『デジタル速報した』ことをもって、“デジタル時代に即したスクープ”としてアピールしているようです。確かにニュースそのものの衝撃は大きかったわけですが、その内実は、当局の発表よりもほんのわずか前に報じるという、旧態依然とした『前打ちスクープ』の典型例。調査報道の社会的な意義が重視されるようになる中で、朝日のこのスクープが協会賞を取れば、業界内外に“間違ったメッセージ”を送ることになると思いますね」
実際、過去には、「三菱・東銀の対等合併」の特報(1995年度、日本経済新聞)など、ビッグニュースを公式発表よりも前に報じたスクープが協会賞を取ることが多かった。しかし最近では、調査報道型のスクープが協会賞を受賞する傾向が強い。
「群馬大学病院での腹腔鏡手術をめぐる一連の特報」(2015年度、読売新聞)
「防衛省『日報』保管も公表せず」(2017年度、NHK)
「財務省による公文書の改ざんをめぐる一連のスクープ」(2018年度、朝日新聞)
などは、そうした調査報道型スクープのよい例だろう。
一方で2016年度には、「天皇陛下『生前退位』の意向」のスクープ」(NHK)の受賞もあるが、概して以前と比べれば「前打ち型」スクープの受賞は減ってきているという。その理由について全国紙経済部中堅記者はこう語る。
「前打ちスクープは結局、当局からのリークと切り離せず、当局との“持ちつ持たれつ”の関係を生みやすい。また、スクープ合戦という報道各社の“業界内ゲーム”という側面も強く、数時間か数日待てば公式発表されるものを他社に先駆けて報じることに、どのような意味があるのかという問題もはらみます。ニュースを深掘りし、追いかけていて、それが結果的に前打ちスクープになるのならいいでしょうが、前打ちスクープのために夜討ち朝駆けに邁進するのは、もはや今の時代にどれほどの意味があるのか。先日の朝日のハンセン病患者訴訟に関する“大誤報”も、そのような“他社に抜かれるな”という業界内競争から生まれたもの、という見方もできますからね」