韓国は極端な学歴社会で、大学に進学しなければ就職は厳しく、難関大学を卒業した場合には高給が望める財閥への就職の可能性が高まるため、韓国の子どもは大学受験が終わるまで厳しい試練にさらされ続けているのです。
特別に教育熱心な家庭でなくても、幼少期から受験戦争に身を置き、朝から深夜まで勉強漬けの日々を送ります。一般的な高校生の一日は、朝1~2時間自宅で学習し、昼と夜の分として弁当を2つ持って7時半前後に登校します。8~16時くらいまで授業があり、その後は希望者のための追加授業が20時頃まであります。部活動などは基本的にないため、ほとんどの生徒はこの追加授業を受けます。その後は自習時間で、学校に残って勉強することもでき、塾に通う人もいます。それぞれ自宅に帰ってからも勉強するので、就寝は深夜です。
短期大学や専門学校を含めた高等教育への進学率は約9割ともいわれ、高等教育を受けられない残り1割の人は就職が困難という現実があるため、必死で勉強するのです。
受験戦争を勝ち抜くために、保護者たちは幼少期から多大な教育費をかけます。教育費をかける余裕のない家庭では、子どもは大学進学や就職が難しく、貧困から脱出できないという負のループが社会問題になっています。
大企業への就職ができない人は、起業して一発逆転を狙います。実際、韓国は2000年前後から急激に自営業者が増えています。しかし、自営業者が生き残るのは易しいことではなく、13年の調査では起業から5年生き残れる確率は20%に満たないことがわかっています。ましてや、就職できなかった人が専門知識もなしに起業した場合の状況は、さらに悪いようです。
受験が歪んだ競争社会を生み出す?
このような偏った社会の現実にあって、必死に大学を目指すのですが、もし一流大学に入ってもまだ将来安泰とはいきません。なぜなら、将来にわたって高収入が約束されるような大企業は極めて狭き門だからです。
例えば、14年時点で韓国内のGDPの35%は2大財閥が占めているといわれています。それはサムスンと現代自動車の2グループです。2グループだけが突出して経済界に君臨し、他の企業はドングリの背比べのような状態なのです。韓国経済全体が「好景気」と盛り上げっている時でさえ、実質はサムスンと現代自動車が好調なだけということも珍しくありません。
このような過酷な受験戦争に影響を受け、他人を蹴落としてでも自分が上を目指す考え方が定着していくとの指摘も多くあります。また、なんとしても希望する大学へ入るためにカンニングや賄賂などの不正を行うケースも毎年散見されます。
大学入試の当日は、さながら国民の一大イベントとなります。いまや全世界にその様子が放送されるので、すっかりお馴染みの光景となっていますが、裏を返せば世界中から好奇の目で見られているということです。交通機関は受験をバックアップする特別ダイヤを組み、遅刻しそうな受験生がいれば警察が受験会場まで送り届け、試験会場近くの道路は徐行運転が義務付けられ、受験生の親族友人は総出で旗を振って応援します。極めて滑稽な光景です。
このような受験のシステムは、歪んだ序列意識や競争観念を生む原因のひとつとなっていると考えられます。しかし、李氏朝鮮の時代から続くといわれる受験過熱は、韓国社会に根深く広まっており、今後も続いていくでしょう。少なくとも、現政権には「子供の幸福度最下位の国」という汚名をそそぐ道筋をつけてもらいたいものです。
(文=林秀英/ジャーナリスト)