労働者派遣の規制緩和(派遣法改正)、労働基準法など労働関連法の改正案(残業代ゼロ法案)と並ぶ、働き手の命運を左右する仕組みが、虎視眈々と準備されている。「解雇の金銭解決制度」である。
雇用特区で「解雇指南」
「勤務考課では(評価の低い)1と2をつけろ」
「減給よりも出勤停止が役立つ」
こんなふうに「社員を解雇する手口」を指南するのは、怪しげなコンサルタントではない。厚生労働省所管の「福岡雇用労働相談センター」が2014年末に開いたセミナーで、弁護士が行った講演である。
同センターは、「福岡市グローバル創業・雇用創出特区」(雇用特区)に設置された。福岡市は特区の提案書で、「創業間もない経営不安定期においては、優秀な人材が必要である反面、解雇しにくい正社員の登用には躊躇感がある」とし、「再就職支援金を支払えば解雇できる『事前型の金銭解決制度』等を、創業後の一定期間(5年間等)について導入することで、正社員の雇用を促進する」とし、政府の国家戦略特区諮問会議はこの提案を採用した。
もっとも、全国一律の解雇規制を特区だけ緩めるという「解雇特区」には世論が反発し、厚生労働省も強く抵抗。結局、頓挫した。
にもかかわらず、「解雇指南」と思しきセミナーが特区で開かれるとは、どういうことなのか。管轄する厚労省に聞くと、「センターの運営は、競争入札で選ばれた民間会社に委託しています。そのセミナーに当省職員は立ち会っていないので、詳細はわかりません」(労働基準局労働条件政策課)と当惑気味。
センター運営を落札したのは、ベンチャー育成などを手がけるドリームインキュベータ(山川隆義社長)だ。同社会長は日本のコンサルの草分け的存在である堀紘一氏で、社外取締役にはオリックス元会長・宮内義彦氏の名前もある。セミナーについて同社に問い合わせると、「厚労省から事業を受託しているので、取材を受ける権限もない」との回答であった。
一方、セミナーで講演を行った弁護士のA氏は取材に対し、「『解雇の指南』をしたつもりはない。(解雇の)金銭解決を導入すべきとは思っているが、不当な解雇に対する制裁強化も提案しており、単純に『解雇規制の緩和』を主張しているわけではない」(要旨)とメールで回答した。
7月2日、田村智子参議院議員(共産党)は、この「解雇指南」セミナーを国会で追及。答弁に立った橋本岳政務官が「誤解を招くものだったのだろう」という認識を示し、石破茂地方創生担当相も「指導・監督」を約束せざるを得なかった。