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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

トランプ米大統領の別荘に中国人女性が侵入し逮捕…スパイ説浮上、中国政府が猛批判

文=相馬勝/ジャーナリスト
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トランプ米大統領の別荘「マーアーラゴ」(写真:ロイター/アフロ)

 今年3月、ドナルド・トランプ米大統領がフロリダ州に所有する別荘「マーアーラゴ(Mar-a-Lago)」に不法侵入しようとしたとして逮捕された中国人の女、張玉婧(チョウギョクセイ)の公判が同州パームビーチの連邦地方裁判所で行われ、陪審員の評決により、虚偽の供述をして故意に制限区域内に侵入しようとしたとして有罪が確定した。判決公判は今年11月22日に開かれ、最高で6年間の禁固刑および25万ドルの罰金が科される可能性がある。

 張は逮捕時に4台の携帯電話とノート型パソコン1台、マルウエア(悪意のあるソフトウエア)が保存されたUSBメモリーを所持していたことや、携帯電話の通話記録から、張が頻繁にヒューストンの中国総領事館に電話していることなどから、中国のスパイの可能性もあるとの報道もなされた。しかし、裁判では彼女がスパイである証拠は提示されなかったという。

 この事件は謎だらけだ。現場で張を調べたシークレット・サービスは張が当初、自分がマーアーラゴの会員でプールに向かっていると主張し、施設に入ろうとした。しかし、張は水着を持っていなかったという。その点をシークレット・サービスから質されると、張は「国連が主催する中国系米国人の催しに参加しようとしている」とも強弁したが、該当する催しは存在しなかった。さらに、米国内では張は中国のパスポートを複数所持していたと報じられているが、法廷文書によると、張が持っていたのは台湾のパスポートだったという。

 このような張の不審な点や有罪が確定したことについて、中国外務省報道官は記者会見で「彼女と中国政府の関係については、まったく聞いていない。そもそも最近の米国政府のやることは疑問だらけだ。ありもしない事実を並べて、SFのような物語をさも真実であるように主張しているようだ」などと述べて、米政府を痛烈に批判した。

尽きない謎

 とはいえ、張の言動は極めて奇妙で常軌を逸している点が多いのも事実だ。

 まず、彼女はこの日の裁判に囚人服姿で現れ、裁判官や弁護人、検察官、陪審員らを驚かせている。囚人服姿だと、「犯罪者」として印象が強くなり、陪審員は容疑者が有罪であるとの心証を強く抱くこともあることから、通常は私服に着替えて法廷に出ることが多い。

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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