このような裁判所の実態が悪用され、今は民事だけでなく刑事でも名誉毀損主張等を悪用した恫喝目的の酷い訴訟が蔓延していることは、多数のメディアが多様な事例を報じている通りだ。
政界においても、当時圧力をかけた側の森元首相は現在、東京五輪組織委員会の会長を務めている。しかし周知の通り、五輪エンブレムも新国立競技場建設計画も白紙撤回するなど迷走を続けており、その責任論について追求されないよう、現在は東京五輪組織委員会を通じてマスコミに圧力をかけているという実態まで告発されている。
「エンブレム撤回問題を報じる番組に対し、五輪関係者はさかんに森会長に対する批判をしないよう働きかけています。実際、森会長の『躍動感がない』発言を紹介した『クローズアップ現代』(NHK)でも、結局は森会長に対する責任論にはまったく触れていませんでした。また、コメントを求めた識者や専門家にも『森さんの批判はしないでほしい』と条件をつけ、そのため何人もの関係者に断られたと聞いています。また、いくつかの民放の番組でも森会長の批判や責任論をNGにするだけではなく『森喜朗という名前を出すな』という自粛がなされている」(本と雑誌のニュースサイト「LITERA」より)
このような状況では、日本の司法が国際的な信用を得られるわけもない。司法を改革する必要性が高まっているといえる。そのような中での城山三郎賞受賞の意義は大きい。受賞を受けて、瀬木教授は次のように語る。
「『ニッポンの裁判』の受賞については、『絶望の裁判所』や専門書をも含めてのこれまでの私の仕事のうちの司法制度論、すなわち日本の裁判所、裁判官、民事や刑事の裁判、そして裁判制度の構造的・批判的分析の意義が認められたということであると思っています。それらの書物でもふれたとおり、日本ではいまだ司法のあるべき姿が実現されたことはありませんが、もし法曹一元制度や陪審制度の実現等の司法制度の抜本的な改革が行われれば、日本の社会全体の民主化や人権の充実のための大きな力となることは間違いないと思っています。わかりやすく興味深い記述に努めた先のような書物によって、国民、市民の皆さんにそのことを知っていただければ幸いです」
瀬木教授の授賞式は12月初旬に実施予定だ。
今後は社会的にも大きな反響となった集団的自衛権などの安全保障法制の改正を含めて、裁判所が違憲かどうかの審議をすることが見込まれているが、このような状況では期待は持ちにくい。私たちも常に関心を持って知識を得て、国民の声が反映されるように司法の改革を求めることが必要なのではないだろうか。
(文=編集部)