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片田珠美「精神科女医のたわごと」

田代まさし逮捕、覚せい剤への強烈な「渇望」と「快感」…過去の栄光と惨めな現状の差も原因か

文=片田珠美/精神科医

 もちろん、覚せい剤取締法違反で服役してから、出所後は覚せい剤を一切使用していないという方も大勢いるはずで、誰もがこの男性のように出所後すぐに覚せい剤を手に入れることばかり考えているわけではないだろう。しかし、田代容疑者が何度も逮捕されている現状を見ると、なかなかやめられないのだなあとつくづく思う。

 このように何度も覚せい剤に手を出してしまうケースは少なくない。多くの覚せい剤依存症者が語る理由の1つに、

「最初に一発やったときの快感が忘れられない」

というのがある。たとえば、ある男性患者は、

「初めて覚せい剤を自分の体に注射したとき、気持ちが高揚して、体が宙に浮き上がったような感じになった。強烈な快感と共に嫌なことはすべて忘れてしまった。最高な気分になれた」

と話してくれた。

 このように気持ちが高揚し、強烈な快感を味わうのは、覚せい剤を摂取すると脳内のドーパミンという神経伝達物質が過剰になり、精神運動性の興奮が生じるからだ。つまり、覚せい剤は脳を興奮させる薬物であり、その効果を求めて、「快感を味わうため」「眠気をとるため」「疲労をとるため」といった目的で覚せい剤を使用するわけである。

傷ついた自己愛を修復するために薬物に手を出す

 田代容疑者が、違法とわかっていながら覚せい剤の使用をなかなかやめられない一因に、傷ついた自己愛を修復せずにはいられないということもあると私は思う。田代容疑者は、かつては売れっ子のタレントだったが、度重なる逮捕のせいで表舞台に出ることができなくなった。スポットライトを浴びていた「過去の栄光」があるだけに、現在の惨めな状況とのギャップに直面することが多く、一層つらかったのではないか。だからこそ、覚せい剤がもたらしてくれる快感に逃避することをやめられなかったように見受けられる。

 芸能界は、浮き沈みの激しい世界だ。ちょっと前まであんなに売れていたのに、最近はテレビでほとんど見かけないような芸能人が大勢いる。しかも、人気が下り坂だということは、CDの売り上げやテレビへの露出などですぐわかるので、本人も自分が「落ち目」だということを実感しやすいはずだ。そういう場合、かつてあんなにも売れていた自分の人気を「過去の栄光」と割り切れればいいのだろうが、それがなかなかできないからこそ、「落ち目」になって傷ついた自己愛を修復するために、薬物に頼らずにはいられない。

「落ち目」というと語弊があるかもしれないが、薬物に手を染めて逮捕される芸能人の多くが、全盛期と比べると人気が落ちているという印象を受ける。これはスポーツ選手も同様で、薬物に手を出して逮捕されるのは、やはり全盛期を過ぎたスポーツ選手が多いように見える。

 田代容疑者も、現在の惨めな境遇と輝かしい過去のギャップに直面して、うつ状態になることが少なくなく、それに耐えきれなくて、気分をハイにしてくれる覚せい剤にまた手を出してしまったのかもしれない。今回の逮捕を契機に、今度こそ覚せい剤と縁を切るべきだが、道のりは険しいだろう。

(文=片田珠美/精神科医)

参考文献 片田珠美『やめたくてもやめられない人―ちょっとずつ依存の時代』PHP文庫 2016年

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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