延長でも以前のような質の情報提供はない
韓国外交関係者は次のように情勢を分析する。
「韓国外交部(日本の外務省に相当)は『GSOMIAは最初からなかったものだし、破棄しても韓国には影響はない』『協定破棄をちらつかせることが日本に対する外交カードになる。アメリカも日本に圧力をかけるだろう』と判断した大統領府に傷をつけないために奔走しています。非常に残念ですが、韓国国内の有識者や実務レベルの外交官にはその論理が無理筋であること、アメリカが日本ではなく最終的に韓国に圧力をかけてくることは予測できていました。大統領は昨年、北韓(北朝鮮)の防諜活動の要だった国家情報院の権限や人員を大幅に縮小しました。この背景には情報院の前身が、アメリカの諜報機関とも密接につながりのあった国家安全企画部であったことが関係しています。歴史的に国内の民主派弾圧を主導してきた機関で、安企部の解体は国内民主派の悲願でもありました。
しかし、情報院の弱体化は外交面で見ればマイナスでした。GSOMIAで韓国側から日本に提供する情報は、脱北者に対する聞き取りや諜報活動で得られたものがメーンです。仮に協定が継続したとしても、以前のような質の情報が日本に提供されるとは限りません。時代と政策の変化で、この情報は強い外交カードにはなり得なくなってしまいました。
協定では北のミサイルや軍用機に対する韓国軍のレーダー情報などの提供も含まれていますが、これは日米の早期警戒機や偵察衛星、イージスシステムで代替が可能です。また協定がなくても米軍と韓国軍は情報がリンクされているので、タイムラグはあっても米軍経由で日本に情報が入ります。
文大統領は情報院や外交部の代わりに、大統領直轄の組織である国家安保室の権限を強化しました。安保室は南北融和を推し進める文大統領の意向に沿うよう、外交的な助言や世界情勢の分析を行っています。その結果、諜報部門や外交関係の専門家はおおむね政府中枢から離れてしまいました。GSOMIA破棄が『日本への外交カードになる』という思い込みも、安保室の助言や情勢分析に原因があった可能性があります。安保室の役割を、米国政府も疑問視しているとの情報もあります」
GSOMIA破棄にからみ、韓国は米国から在韓米軍駐留費用の増額を求められているとの報道もある。それでも韓国政府は、日本が輸出管理強化を緩和しない限り、GSOMIAを延長しない方針を崩していない。
一方で、韓国外交部の康京和(カン・ギョンファ)長官は近日中に訪米し、韓国の見解を米国政府に説明する。また康長官は22日、名古屋市で開催される主要20カ国・地域外相会合(G20)にも出席し、文字通りギリギリの調整を行う見通しだ。「想像しがたいほどの波紋」の発生は、もう目前に迫っている。
(文=編集部)